Ex. 300年後の未来①

Ex.1 神話となった者


世界は変わった。


かつて戦火が嘆きのように街を焼き尽くした痕跡は、今やどこにもない。

摩天楼が林立し、幾何学的な光があふれる都市は、無機質な美をたたえている。

透明な歩道、宙に浮かぶ交通機関、どこまでも純粋な曲線を描く建造物たち——


それらは、300年前に存在した荒廃や狂信の爪痕をすっかり覆い隠していた。


人類は、自己の肉体を自由に操る術を手に入れた。

美容整形と遺伝子操作が日常に溶け込み、人々の外見はまるで彫刻家の手によってデザインされたかのように、己の理想を映し出している。

男女の境界は、生物学的にはなお残るものの、視覚的にはもはや意味をなさない。

男であれ女であれ、ある者は完全なる中性を選び、またある者は異性の美を追い求め、あるいは超越的な存在へと進化しようとする。


その世界のどこかに、語り継がれる神話があった。



「純白の神の眠り」——

白華神(ヴァイス・ブルーテ)の伝説。


古びた電子書籍の片隅に、あるいは紙の手触りを持つ書物の断片に、それは残されている。

都市伝説やオカルト書物の一節に、静かに囁かれる物語。


かつて、人の理を超えた者がいた。


純白の髪は月光の滝のごとく地を流れ、眼は深海の静寂を宿し、肉体は神の彫刻のように異形を極めた。

36本の指、9本の尾、背を覆う白銀の翼。

裂けた舌は甘美な響きを紡ぎ、囁く言葉は絶対の教義となった。


彼は彼女であり、彼女は彼であり、あるいはそのどちらでもない。


信者たちは彼の足元に跪き、己の肉を捧げ、崇め奉った。


——やがて白華神は、眠りについた。


世界は変わり、人々は問う。


「本当に、そんな存在がいたのか?」


「それともただの神話なのか?」


書物の頁は、時を超えて朽ちていく。


しかし、その最後の頁にはこう記されていた。


「白華神の復活」


そして、物語は幕を閉じる。

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