九回もあの夢を見た理由
嶋月聖夏
第1話 九回も夢を見た理由
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
桜吹雪の中、俺と同じ年の子供が泣いている夢だ。
「今年も見たのか?」
春休み終了まであと三日の日、俺は幼稚園の頃からの親友である優斗と話をしていた。
「ああ。毎年、この時期になると必ず見るんだ」
ファーストフード店で、隣の席に座っている優斗はコーヒーを飲みながら話を聞いてくれている。
黒髪のボサボサ頭に、パーカーとGパンという俺の格好に対し、優斗は綺麗にカットされた茶髪で、明るい色のジャケットと春用のズボンを着こなしていた。
「…もしかしたら、過去の記憶に関係しているんじゃ?」
優斗が、ふと呟いた。
「タケル、その夢がどんな場所なのか、思い出せるか?」
そう言われ、俺は頭をフル回転させる。…確か、近くの公園の桜並木だ。
「そこに行ってみるか?もしかしたら毎年その夢を見る理由が分かるかもな?」
一瞬、意味ありげな目で俺を見た優斗が、そう進めてきた。
その桜並木は、俺が住んでいる町の桜の名所として有名な場所だ。
ベンチもある公園なので、よくここで気軽に花見をする住人がいる。
店を出た後、俺は優斗と一緒にその公園まで歩いてきた。
「…散ってきたなあ」
三月下旬に咲いた桜は、もう散り始めている。
「綺麗だな…」と思えるのは、高校に合格したからだ。それも、志望校に。
ややレベルが高かったが、優斗のサポートのおかげで合格できた。俺は、どうしてもこの高校に行きたかったのだ。
「…あ!」
―あの『高校』に行けば、また会えるよ。
夢の中で、泣いていた子供へ、そう声をかけていた。
それを思い出した俺は、その子供が誰なのか分かった。同じ幼稚園でよく遊んでいた『光』だ!
たしか、引っ越すから、同じ小学校へ行けれない事で泣いていたんだ。
それで俺は、元気づけようと光へそう言ったんだ!
突然の春風で、桜の花が舞った。桜吹雪が俺の視界を覆う。
「…!」
まるで手品のように、桜吹雪の中から一人の人物が現れた!
その人物は短い栗毛色の髪、細身の水色のズボン、同じ色のカーディガンを着ていた。そして、夢の中で泣いていた子供にそっくりな顔をしていた。
「…ヒカル!」
そう、九回も連続で見た夢の中に出てきた、あの泣いていた子供だ。
「…タケちゃん、久しぶり!」
俺へ声をかけた時の顔は泣き顔ではなく、満面の笑みだ。ようやく、再会出来た事を喜んでいる、心からの笑顔。
「タケちゃんはどの高校?」
光に聞かれ、俺はあの『高校』の名を言った。
「私も受かったんだよ!お父さんの転勤が終って、またこの町へ住めるから、よろしくね!」
また、一緒に過ごせる。あの頃は意識していなかったが、高校生になるんだと思ったら、顔が急に熱くなってきた。
「光、今彼氏いる?」
突然、優斗がとんでもない事を言いだした!
「いないよ」
キッパリと言った光の言葉に、俺は心から安心しきった。
「彼氏の座、手に入れろよ」
小声で言ってきた優斗の言葉を聞いて、俺は改めて光への恋心を意識した。
そして毎年、あの夢を見ていた理由が分かった気がした。幼馴染の女の子―光の事を忘れないようにするためだったんだな、って。
終わり
九回もあの夢を見た理由 嶋月聖夏 @simazuki
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