宝石

第22話

その日の夜11時、京都駅から四国方面に向う夜行列車に乗り込んだ。

友人たちがプラットフォームへ見送りに来てくれた。

列車の出発のベルが鳴ると、私は乗り込み、手を振った。


優里はホームの端まで走り、私に手を振った。

彼女の元気よさは、大学時代のままだった。

私は、みんなが見えなくなるまで精一杯手を振った。


列車は桂川にかかる鉄橋を堂々と駆け抜けていく。

大阪へ買い物に行った時、よく見た風景だ。


いつも見ていた風景が、今日の私にはかけがえの無いものに思えた。

私は自分の席に着き、リグライニングシートを倒す。

隣の席は空いていた。


私は依然、失恋のショックを忘れられずにいた。

窓の外の桂川の流れを名残惜しげに眺める。

その窓に映る私の顔は意外にも笑っていた。


卒業証書を貰ったときは、非常に感動した。

子供のときからずっと探していた宝物を誰かに手渡されたような気持ちだった。


これまでの人生の不本意な日々も受け入れられた。

そして、入ってきたときのわくわくした気持ちが蘇った。

そのときの気持ちをずっと忘れずにいたい。


窓の外には、京都郊外の町のネオンサインが輝いている。

小さな町の灯り一つ一つが、そのときの私には宝石のように見えた。

私はその風景を懐かしく思いつつ眺めていた。

そうしながら幸せな気持ちで眠りについた。


不意に思い出した。


「よく落ちる わが人生の カーブかな」


かつてやけくそで書いた川柳だった。

今思えばやはり、人生のカーブは落ちるものではない。

長い目で見ると、カーブは曲がり角だった。

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