第9話

「寧々がそんな事を?」

真理子は矢野の腕の中にいた。

矢野は妻を抱き寄せる。

「いつか私と共演したいんですって」

「いい夢じゃないか」

その頃、寧々は部屋で台本を読んでいた。

どんな役でもあなたの糧になる……

寧々は綾の台詞を必死に覚えていた。


「相手役がいなきゃ演りづらいでしょう?」

ドアを開いて真理子が入って来た。

「いいの?寝室を抜け出したりして」

「さっきまで散々抱かれたから。今はもう眠ってるわ」

寧々は真っ赤になっている。

「純情ねー」

真理子は笑いながら寧々の頰を突く。

「何ページから?」


「お姉ちゃんには分からない!次々に相手を変え、本当の恋愛なんてした事ないんじゃ

ない?」

「早すぎる。それじゃあまくし立ててるだけ。こう演るの」

真理子は台本を持って立ち上がった。

「お姉ちゃんには分からない!……次々に相手を変え、本当の恋愛なんてした事ないんじゃない?」

真理子の声は怒りの中にも姉への思いと哀しみが感じられる。夜の世界で生きなければならない姉への憐れみも感じさせた。

「心が入っていないの。何故綾は姉に向かってそういう台詞を言うの?言わなきゃならなかったの?あなたのはただ読んでるだけ。もっと台本をよく読んで情感を頭に叩きこみなさい」

真理子は台本を返すとそのまま部屋を出て行ってしまった。

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