第21話 花火大会

 江戸川花火大会の当日。私は集合時間よりかなり早めに集合場所に着いていた。


 その理由はもちろん、ゴールデンウイークで一人だけ上野に行けなかった雪辱を晴らすためである。あの時の私がどのくらい悔しかったかというと、大会の決勝で負けて準優勝で終わってしまったときくらい。


 その悔しさを晴らすため、今日こうしてかなり早めに着いたわけだが、それよりも早く着いている人がいた。それも二人。


「あ、えりちゃん。随分早いね」


「お、えりちゃん来たのか。早えな」


 それはこっちのセリフである。なんで黒野くろの先輩とすいちゃんはこんなに早くいるんだ。しかもこの二人、今までよりも明らかに距離感が近い。この数日で何があった。


「それはこっちのセリフなんだけど……。お二人さん、何かあった? 随分と距離が近い気がするんですけど~?」


「え、そういうの分かるタイプなん? お前」


「だって明らかに距離近いじゃないですか、誰が見ても分かりますって」


「先輩、えりちゃんの前で隠すのは無理です。白状しましょう」


「白状て。え~、この度私とやなちゃ……翠香すいかはお付き合いをさせて頂くこととなりました」


「と、いうことです」


「お~。やっとですか。おめでとうございます」


「あれ、意外と驚いてない?」


「まあ、そんな雰囲気は感じてましたし……。てか私すいちゃんについてた噛み痕見ちゃってますから」


「うげ、マジかよ……」


 黒野くろの先輩がげんなりとした顔をしている。あの噛み痕は本人にとっても割と反省点らしい。


「あら、みんな早いのね。もう全員集まってるなんて」


逆霧さかぎり先輩~、こんばんは~」


「こんばんは、逆霧さかぎり先輩」


「うっす」


 簡単な挨拶を済ませると、逆霧さかぎり先輩は訝しむような目ですいちゃんと黒野くろの先輩を交互に見ていた。そしてすぐに、何かに納得したような表情に変わった。


「なるほど。やなぎさん、水城みずきをよろしくね」


「お前何を見て何を察した!?」


「はい、黒野くろの先輩はしっかり私が見ていますので」


 ふふっ、と逆霧さかぎり先輩が微笑む。親友を支えてくれる人ができたことは、逆霧さかぎり先輩にとっても嬉しいことなのだろう。


「じゃあ、行きましょうか。せっかくの花火大会ですもの。いい席をとりたいわよね」


「そうですね! 行きましょー!」


 そうして、私たち四人で花火大会の席を探すために歩き出した。もちろん、カップルのお二人は邪魔しないように。




「この辺りにしましょうか」


「そうだな。てかまだ一時間前なのにこんなに人いんのかよ……」


「そりゃあ、東京の花火大会ですし。人も多いでしょう」


「でもなかなかいい感じに見れそうな席とれたね! 楽しみ!」


 私と黒野くろの先輩に気を使ってくれたのか、私たちが隣になるように席をとってくれた。やっぱり私は人間関係に関して、かなり恵まれていると思う。


「いやー、こうしてみんなと花火が見れる。嬉しいな……」


「えりちゃん、ずっと悔しそうだったもんね」


「でも今日リベンジできたから満足だ! いやまあ本番はこれからなんだけど」


 花火はこれからだ。きっと私たち四人を見惚れさせる素晴らしいものが打ちあがるのだろう。




「お、一発目が来るぞ~」


 空に大輪の花が咲く。そして聞こえてくる歓声。夏の暑さなんて感じさせないような盛り上がりが、私たちを包み込む。


 その空気に流されながら、どんどん打ちあがっていく花火をこの目に焼き付ける。


「私、みんなとここに来れて良かったです」


 自然とそんな声が漏れてしまう。そのくらい私はこの人たちに出会えてよかったと思う。


 サークルのみんなに、私と黒野先輩の関係をすんなり受け入れてもらえたことは本当に嬉しかった。


 このサークルの人たちはみんないい人たちだ。私はこの関係性を大事にしていきたい。


 黒野くろの先輩の隣で、こうして一緒にいられること。それが幸せだ。


 思えば、私は最初の新歓のときからこの先輩に酔わされていたのかもしれない。私も、先輩の心を酔わせられていただろうか。できていなかったのなら、これから酔わせてしまおう。


 この花火に負けないくらい、大きな感情で包み込む。


 私の心の度数が上がっていくのを感じる。こんな重い感情を抱えながら、私は先輩の隣に寄り添っていく。


 花火が終わるまで、溢れ出しそうな感情をぐっと飲みこんで、最後の一発が打ちあがった時に私は言った。


黒野くろの先輩、愛してます」


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心を酔わせる、あなたの感情 桜花滝 @onotaki

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