第18話 学期の終わり 夏休みの始まり

 大学生にとっての期末試験は戦である。よくよく考えなくても中学・高校の期末試験も戦だった気はするが、とにかく一大イベント(嬉しくない)である。


 そしてそんな戦を乗り越えた大学生が四人、現在居酒屋で一堂に会している。


 そう、新歓の時と同じ居酒屋である。


「それじゃあお前ら……準備はいいな?」


「ええ、もちろん」


「いつでもいけます」


「当然! もう待ちきれない!」


「良い返事だな。それじゃあ我々雑談サークルの一学期終了を祝して……」




「「「「かんぱーい!!!!」」」」




 グラスのぶつかる小気味のいい音が私たちのいる席に響き渡る。私たちの一学期の終了を祝う凱旋の音だ。非常に気持ちがいい。全てから解放された気分だ。


「と、いうことで明日から夏休みな訳ですが。みんな予定どうなってるー?」


「私は……そうね。しばらく空いてるわ。いつでもみんなの予定に合わせられる」


 逆霧さかぎり先輩は割と暇らしい。夏休みに暇な人は遊びに誘いやすくて助かる。


「私は分かんない! いつ友達から連絡くるか分かんないし」


 対してえりちゃん。一番困る。彼女は友人が多いだけに声を掛けられる機会も多いのだろう。


「私は明後日から実家に帰省ですね~。二日くらいこっちにはいないです」


「なるほどな~。で、まあみんなに予定を聞いたのには訳がありまして」


「みんなで花火大会見に行かね? 東京でやる、デカいやつ」


 花火大会。


 確かに、東京で夏と言えば隅田川の花火大会は外せないだろう。だが、その花火大会の日程は私が実家に帰省する日程と被ってしまっている。


「あー、月末の隅田川花火大会なら私は行けないですね……」


「おいおい、東京の花火大会が隅田川のやつだけだと思うなよ?」


「と、言いますと」


「八月に江戸川でやるやつ、そっちに行かないか?」


「りょーかーい! じゃあその日は開けときまーす!」


「ええ、じゃあその日はみんなで行きましょう」


 これで夏休み中に全員揃うことが確定した。私も楽しみだ。みんなで一緒に花火を見る。実に大学生らしい。




 そうして、夏休みの予定が決定した後はみんな思い思いのことを話していた。


 やはり夏休みを前にした学生とはこうあるべきだろう。みんなで飲んで、食べて、話す。


 ちなみに黒野くろの先輩は割とペースをセーブして飲んでいた。さすがにあの時から反省しているらしい。


「さて、今日はそろそろお開きにするか!」


「あら、水城みずき今日は酔いつぶれなかったわね。やなぎさんに迷惑が掛からなさそうでよかったわ」


「あたしだって反省してるんです~」


 そうして、特に誰かが寝ることもなく今回の飲みはお開きとなった。ちなみに私はジュースしか飲んでいない。前回の宅飲みで死ぬほど反省したので。


 そうして、居酒屋を出て駅に着くまでも雑談は続いた。やっぱり私たちは雑談サークルだ。


「んじゃ、私たちはここで。花火大会の日、楽しみにしてるわね」


「じゃあね~! 花火大会でまた会おう!」


「おう、またな~」


「では、また花火大会の日に」


 そうして、帰り道が同じ逆霧さかぎり先輩とえりちゃんのペア、私と黒野くろの先輩のペアに別れて帰路に着いた。


 前回は先輩を担いで苦労した帰り道が、今回は気も肩も軽い。素晴らしく爽やかな帰り道である。


「そういえばやなちゃんはさ、実家どこなの?」


「私の実家ですか? 木更津です」


「お、いいね。ちょっと行ってみたかったんだよね~木更津。なんか何にもないって聞くけど」


「まあ、特に何かがあるわけではないですかね……」


「でもなんかいいとこらしいじゃん? 興味はある」


「じゃあ、来ますか?私と一緒に」


「え、マジ? いいの?」


「はい。まあ、先輩がいいならですけど」


「行く行く。せっかくだし私が車で送ってこっか?」


「じゃあせっかくなのでお世話になろうと思います。先輩との予定が増えるの、嬉しいですね」


「お前、そんなに直球ぶん投げてくるタイプだったっけ……」


「そこはまあ、先輩なので。噛み痕も付けられてますし?」


「おいやめろ、マジで。今でも思い出してすげー申し訳ない気持ちになるんだから」


「あの時は、そりゃあ戸惑いましたけど。今では先輩のことを感じられていいなって思います」


 そう返すと、黒野くろの先輩の顔が真っ赤になる。可愛いところもある先輩だ。先輩の新しい一面を垣間見れた気がして嬉しい。


「お前よくそんなことを恥ずかしげもなく言えんな……」


「恥ずかしげがなさそうに見えるのなら、先輩もまだまだですね」


 ちょっとドヤ顔で返したが、内心は心臓バクバクである。普通に言うかどうか迷ったし、言った後は私の顔から火が出そうだった。


「お前なあ……まあいっか」


「そう、いいんですよ。先輩」


 これくらい積極的に行かないとこの先輩は落とせない。私は黒野くろの先輩という牙城を崩すためにあらゆる手段を尽くす。


 思えば、これだけ誰かに夢中になったのは高校生以来だ。その時は失敗してしまったけれども、今回は失敗しない。


 そのための一歩を踏み出す夏休みが、始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る