第17話 真剣勝負#とは

 思いっきり体調を崩した六月も乗り切り、七月となった。ここまでくるともはや蒸し暑いとかではなく普通に暑い。


 日差しが燦々と照り付けてくる日々が訪れるようになったが、我々文芸サークルもとい雑談サークルは今日も変わらず活動をする。


「あ、言い忘れてたけど来週から夏休みまで活動休止な。試験期間に入るから」


 前言撤回。活動が無くなった。


 確かに妥当ではある。試験よりも雑談を優先する人間がどこにいるんだという話だ。


 それでも私としては、黒野くろの先輩に会える回数が減ってしまうのは寂しいものであった。


 家が近いとはいえ、サークル以外で顔を合わせる機会はそんなに多くない。


「そっか~。先輩たちとしばらく会えなくなっちゃいますね」


 えりちゃんも少し残念そうにしている。


 なんだかんだ、先輩たちは私たちにかなりよくしてくれていると思う。しばらく顔を合わせることができないのはかなり寂しい。


「まあ試験期間だけよ。夏休みに入ったら、みんなで集まりましょう?」


「そうです! 私はゴールデンウイークのリベンジを夏休みで果たすんだ……!」


 逆霧さかぎり先輩の一言で、えりちゃんの瞳が燃え盛っていた。どうやらあの時のことが相当悔しかったらしい。


「試験と言えば、先輩たちは過去問持ってたりしませんか?」


 そう。私がこのサークルを選んだ理由は、活動がゆるゆるで且つ縦の繋がりが欲しかったから。縦の繋がりを活かすなら今しかない。


「フッ……。そう言うと思って持ってきたぜ。去年の過去問をなあ!」


 なぜかすごいドヤ顔の黒野くろの先輩。しかしありがたいことに変わりはない。大学の試験は、過去問の有無で楽さが天と地ほどの差があると聞いている。


「しかし! 今ここにあるのは一枚だけだ。さあお前ら、二人で勝負して勝った方にこれをやろう……」


「あ、じゃあ私コピーしてきますね。先輩、その過去問頂いてもいいですか?」


「こういう時だけはノリ悪いな! たまには私にもボケさせろや!」


 はてさて何のことやら。私は普段から真面目で優秀な先輩のツッコミ役で売っているというのに。


「うん、私真面目ですけど? みたいな顔するのやめような。お前は立派なボケだから」


水城みずき、そんなどうでもいいことしてないでコピーしてきたらどう?」


「お前もブレねえな……あーもうわかったよ。コピーしてきますよーだ」


 そう言って、少し拗ねた顔で黒野くろの先輩が出ていった。少し申し訳ないことをした気分になる、少しだけ。


「ありゃ残念。私は勝負しても良かったんだけどな~?」


「勝負って具体的に何するのよ……」


 呆れ顔の逆霧さかぎり先輩。もう勝負する必要はなくなったのに、流れが変わりそうである。


「ん~。じゃんけん? あっち向いてホイもつけよう」


「よっしすいちゃん。そうと決まれば私と勝負だ!負けないぞ!」


「いやなんで勝手にやる流れになってるの」


「だって黒野くろの先輩帰ってくるまで暇じゃない?」


 流れがちゃんと変わった。まあ確かに黒野くろの先輩が戻ってくるまで暇なのも事実。暇つぶしに勝負に乗ってやることにした。


「まあ確かに……じゃあ帰ってくるまでね?」


「ノってきたね?負けないよ~? それじゃあ……」


「「じゃんけんぽん!」」


 まずは私の勝ち。しかしここからだ。


「あっち向いてホイ!」


 私が指さしたのは右。えりちゃんが向いたのは下。勝負継続である。


「「じゃんけんぽん!」」


 今度は私の負け。確率は四分の一。当てられてなるものか。


「あっち向いてホイ!」


 えりちゃんが指したのは下。対して私は上。まだまだ負けていられない。


「やるねえすいちゃん……」


「そっちこそね……えりちゃん」


 少年漫画のようなやり取りを交わす私たち。だがやっていることはあっち向いてホイである。本当に大学生なのか疑わしくなってきた。


 逆霧さかぎり先輩は変な人たちを見るような眼差しでこちらを見ていた。


 やめて欲しい。私もえりちゃんも多分わかってる。今自分たちがすごい変な人だってこと。


 しかし、勝負となってしまった以上私たちにもプライドというものがあるのだ。


 あっち向いてホイで失われるプライドなんて多分大したものじゃないけど、そんなの承知の上だ。


 そうして、私とえりちゃんの勝負は長期戦にもつれ込んでいく。


「おーい、コピーしてきたぞ……って何してんのお前ら」


「邪魔しないでください先輩。今私たちは負けられない勝負をしているのです」


「そう、今の私たちはプライドをかけた勝負をしている……」


「いやなんで私がいないときに勝負おっぱじめてんだよ。私がいる時にやれ私がいる時に」


水城みずき、あなたが言い出しっぺでしょう? 彼女たちを止めて頂戴?」


「そこで私に投げてくんの!? お前もやっぱりなんかおかしいよな!?」


 結局、私たちのあっち向いてホイは十回戦くらいまでもつれ込んだ。


 正直途中から何回繰り返したか数えてなかったので、だいたい十回戦くらいだろうという感覚である。


 最終的にはえりちゃんが私を右に向かせたことで決着した。プライドをかけた戦い、敗北。


「ふぅ……すいちゃんもまた強敵ともだった……」


「我が生涯に一片の悔いなし……」


「うん。なんか北〇の拳みたいなこと言ってるけどお前らがやってたのあっち向いてホイだからな?」


 その後、コピーしてきてもらった過去問をしっかりと受け取りその日のサークルは幕引きとなった。


 これからしばらく先輩たちとは会えない日々が始まってしまうが、その方が夏休みに先輩と会う時の嬉しさが際立つというものだろう。


 そうして、私の大学に入ってから初の試験期間が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る