第2章
**第2章:地獄巡りと殺戮**
腐臭と硫黄の臭いが混ざり合った、ねっとりとした空気が肺にまとわりつく。ここは地獄。生前、神も仏も信じなかった俺に相応しい場所だ。
「ククク……ハハハハハ!」
俺の笑い声が、石造りの回廊に響き渡る。反響し、幾重にも重なった笑い声は、まるで悪鬼の咆哮のようだ。足元には、先ほど俺が握り潰した亡者の残骸が転がっている。腐りかけの肉と骨、そして臓物が混ざり合い、ドロドロとした悪臭を放つ塊。まるで、腐った果実を潰した時のようだ。ああ、実に不快で、そして……愉快だ!
俺は、その残骸を足で弄びながら、あたりを見回した。ここは、地獄のどこなのだろうか。見渡す限り、石造りの壁と回廊が続いている。天井は遥か高く、闇に溶けて見えない。壁には、苦悶の表情を浮かべた無数の人面が彫り込まれている。まるで、生きたまま壁に塗り込められたかのようだ。
「趣味の悪い装飾だ」
俺は、人面の一つに唾を吐きかけた。人面は、まるで生きているかのように、俺を睨みつけた。…気がするだけか。
再び歩き出す。どこへ向かうのかは分からない。だが、どこへ行こうと、俺の目的は変わらない。神仏を殺す。それだけだ。
しばらく歩くと、開けた場所に出た。そこは、広大な広場になっており、中央には巨大な釜が据えられている。釜の中では、真っ赤な炎が燃え盛り、その熱気が俺の肌を焼く。
「グツグツと、美味そうなスープでも煮えているのかね?」
俺は、釜に近づき、中を覗き込んだ。…だが、そこにはスープなどなかった。代わりに、無数の亡者たちが、煮えたぎる熱湯の中で、もがき苦しんでいた。
「ギャアアアアア!」
「助けてくれえええ!」
「熱い! 熱い! 熱い!」
亡者たちの悲鳴が、広場に響き渡る。その声は、苦痛と絶望に満ちていた。…ああ、実に耳障りだ。まるで、豚の鳴き声のようだ。いや、豚の方がまだマシか。
「おい、そこの鬼」
俺は、釜の近くに立っていた鬼に声をかけた。鬼は、牛のような頭に、人間の体を持つ、異形の存在だった。…地獄の番人、といったところか。
「なんだ、新入りか?」
鬼は、俺を睨みつけながら、そう言った。その声は、太く、低く、威圧的だった。…だが、俺には、そんなものは通用しない。
「新入りかどうかは、どうでもいい。それより、こいつらは何をしているんだ?」
俺は、釜の中の亡者たちを指差した。
「釜茹での刑だ。生前、悪事を働いた者たちが、ここで苦しむのだ」
「悪事だと? どんな悪事を働いたんだ?」
「嘘をついた、盗みをした、人を殺した……様々だ」
「ふーん……」
俺は、亡者たちを眺めながら、考えた。…嘘をついた、盗みをした、人を殺した……。それらは、本当に悪事なのだろうか? 俺には、そうは思えない。
「くだらない」
俺は、そう呟いた。
「くだらない?」
鬼は、俺の言葉に、怪訝そうな顔をした。
「ああ、くだらない。こんなことで、人間を苦しめるなんて、時間の無駄だ」
「貴様、何を言っている!」
鬼は、俺に怒鳴りつけた。その声は、先ほどよりも、さらに大きくなっていた。
「俺なら、もっと効率的に、人間を苦しめることができる」
「……何?」
「例えば、こうする」
俺は、そう言うと、釜の中に飛び込んだ。
「貴様、何をする!」
鬼は、慌てて俺を止めようとした。だが、遅かった。
俺は、煮えたぎる熱湯の中で、亡者たちを掴み始めた。そして、力いっぱい、握り潰していく。
「ギャアアアアア!」
「やめろおおおお!」
「助けてくれえええ!」
亡者たちの悲鳴が、先ほどよりも、さらに大きくなった。…ああ、実に愉快だ。まるで、オーケストラの演奏のようだ。
「貴様、気が狂ったか!」
鬼は、俺に向かって、金棒を振り下ろした。だが、俺は、それを軽々と避けた。
「狂ってる? そうかもしれないな。だが、俺は、これが正しいと思っている」
俺は、そう言うと、鬼の金棒を奪い取った。そして、その金棒で、鬼の頭を殴りつけた。
鬼の頭は、スイカのように砕け散った。…ああ、実に美しい。まるで、花火のようだ。
「さて、次はどうするかな……」
俺は、釜の中の亡者たちを見回した。…まだ、たくさん残っている。全部、潰してやるか? いや、それでは面白くない。
「そうだ……」
俺は、あることを思いついた。
俺は、亡者たちを、釜の中から引きずり出した。そして、広場に並べた。
「お前たち、これから、俺の遊びに付き合ってもらうぞ」
俺は、亡者たちに、そう言った。亡者たちは、怯えたような表情で、俺を見つめている。
「どんな遊びだ…?」
一人の亡者が、震える声で、そう尋ねた。
「簡単な遊びだ。お前たちを、積み重ねて、ピラミッドを作る」
「ピラミッド…?」
「そうだ。一番上に乗った奴は、解放してやる」
「本当か…?」
「ああ、本当だ。ただし、途中で崩れたら、全員、最初からやり直しだ」
「……分かった」
亡者たちは、渋々、俺の指示に従った。彼らは、互いに体を支え合い、ピラミッドを作り始めた。
「もっと高く! もっと早く!」
俺は、亡者たちを急かした。亡者たちは、必死に体を動かした。…ああ、実に滑稽だ。まるで、蟻の行列のようだ。
ピラミッドは、次第に高くなっていった。…だが、その時、一人の亡者が、バランスを崩した。
「あっ!」
その亡者は、ピラミッドから転げ落ちた。そして、他の亡者たちも、次々と崩れ落ちていった。
「ギャアアアアア!」
「痛い! 痛い! 痛い!」
亡者たちの悲鳴が、広場に響き渡る。…ああ、実に愉快だ。まるで、ドミノ倒しのようだ。
「残念だったな。最初からやり直しだ」
俺は、亡者たちに、そう言った。亡者たちは、絶望したような表情で、俺を見つめている。
「もう嫌だ……。こんなこと、したくない……」
一人の亡者が、泣きながら、そう言った。
「嫌だと? そんなことは許さないぞ。俺の遊びは、まだ終わっていない」
俺は、そう言うと、亡者たちを、再び、釜の中に放り込んだ。
「ギャアアアアア!」
「助けてくれえええ!」
「熱い! 熱い! 熱い!」
亡者たちの悲鳴が、再び、広場に響き渡る。…ああ、実に愉快だ。まるで、音楽のようだ。
俺は、しばらくの間、亡者たちの苦しむ様子を眺めていた。…だが、次第に、飽きてきた。
「そろそろ、次の場所へ行くか……」
俺は、そう呟くと、広場を後にした。
(地獄の苦しみは、本当に永遠なのだろうか? それとも、いつか終わるのだろうか? そして、この男は、どこまで堕ちていくのだろうか?)
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