第3話 稲福の御婆
老いた加那の息が乱れはじめたころ、ノロの家格ある女たちが
ノロの
今、若ノロに
それに
「心配せんでもよい、苗が帰ってくる」
そう云うだけなのだ。
呆けたようすはない。
他のことについては、さまざまな
苗とはいったい誰のことか。
そうたずねるのは、脇ノロの若い娘たちであった。
苗が
かつてこの棚原に、自由に雨を降らせ、田畑を
そういう話を、耳にしたことはある。だが、ほとんどの者にとっては、年寄りのただの昔話でしかなかった。苗を知る老人たちでも、加那の手前、あえて口にはしないし、彼女が生きているとは思っていなかった。
その苗が、帰ってくる。
そう云いつづける母の言は、
やむなく女たちは、
ところが、老いたノロの言葉どおり、まるで母親が逝くことを知っていたかのように、「苗」は帰って来た。
村にあらわれた彼女は、もう六十をすぎる
もちろん若くはない。かつての黒髪は銀に染まり、目尻の
だが、おだやかに笑みをたたえ、凛としたその姿は、
これが、あの若ノロ。
苗を知る者も知らない者も、ただその姿に目をうばわれた。
母加那と苗は、数十年ぶりの親子の対面であるはずだったが、たいした会話もなく、二人とも、笑みを交わすだけだった。それはまるで、ずっと共に暮らしていたかのような、母娘の様だった。
母は
苗は、かつてと変わらぬ気安さで、村人たちに接した。
手をかざして人々を癒やし、吉日を
やがて棚原村は「美味い米どころ」として知られるようになった。
苗はいつしか、みんなから「
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