第3話 謀略の席
その日。
国王がお呼びであると、
いつにない深刻な顔である。
「お気をつけください。ただ事ではないようす、
「ん? 御主加那志前が、すでに
大勢頭部は声をたてず、大きくうなずいた。
心配そうな彼女に添われて、長い廊下をゆく。
ふすまが開かれると、書院の広い座敷に、ざっと三四十人。尚真王はじめ女神官や、司官奉行らに親方たち王府の
木田は、
なにか、今までにない
これだけ多方の
自分とおなじく、事情を知らず召集されたらしい、
木田はすっかり油断していたことを自覚した。いつかこのような日が来るであろうとは感じていたが、それが今日だとは思ってもいなかった。
これまで「策略」と呼ぶにはあまりに
木田は
「
「うむ……」
尚真王の口は重い。
「なんなりと。
その言葉に、三司官の一人がかみついた。
「なにを無礼な!
にじり出た彼を手のひらで制し、尚真王が、口を開いた。
「では……。率直に云う。実はな、皆がな、おぬしを信じてはおらんようである。あれは、まやかしではないか、はたして
「それは
「いや、予は信じておる。ただのう、皆がな……」
尚真王は、苦い面にちらと眉を動かして、一座へ視線を投げてみせた。
木田のよからぬうわさが、王の耳に
「ワシが用いた木田に不満か!
そう怒鳴ると、
だが払っても払ってもつきまとってくる蝿のように、日がたてば、またどこかから湧いて出て、耳にまとわってくるのだった。
陰口は、勘ぐりを含んだうわさになり、うわさはやがて、伝聞になる。木田の
そのような折、木田の術は、王を
退位させられた前王、
王府として、これは
尚宣威はすでに逝去していたが、その係累をかつぎあげての反逆は、王府の警戒するところであった。
謀反の疑義――。
木田は、思いだした。
先ごろ年配者のトキから、「九月十一日は宣威王の年忌であるが、法要の件など打ち合わせに行くべきではないか」と進言された。
書官にたしかめると、不要というので放っておいたが、あれは、謀反の
木田の陰謀――。
これは
それを知るには、今一度、あらためて木田の力を
「そこで、じゃ。木田よ、そなたの力を、今一度、皆の前で見せてもらいたい」
「と、
「うむ、では、持ってまいれ」
国王の声に、一人の吏官が、
「おぬしは、とくに
「五匹にございます」
「ん?」
木田には、もう見えていた。
「この中には、ネズミが五匹、入っております」
座がどよめいた。
隣り同士が右に左に顔をよせあう。
「も、もう見えたというか?! 五匹か……、ほ、本当か……」
「はい」
「そうか……、五匹だな、五匹でよいのじゃな」
木田は涼しい笑みで、大きく
「木田よ、もう一度、ゆっくり見てもよいのだぞ。
「それにはおよびません。
これだけ
「
「うむ。では木田よ、もしそのときは? もし違うていたら、何とする?」
「いかようにでも」
「打首じゃ打首じゃ。そうじゃ、打首じゃ!」
「かまわぬ!」
木田の一喝が、ふすまを揺らした。
いつもの温和な木田に
「では……」
と云いつつ、その
「ただぁし!」
ふたたび木田の怒声が、座を
「このような、
国王にさえ、有無をいわせぬ気迫であった。
「う、うむ、道理。では、もし木田が正しけれは……、もし、ネズミが木田のいうとおり、五匹であったらば、御医頭、おまえを打首とする。文句はあるまいな!」
うすら笑いを浮かべていた御医頭の顔が、ひきつれた。
「これは
思いがけない
八重山鎮圧のとき、兵を率いた武将の一人であった。
木田とは、出航の儀式の際に、盃を交わしただけであったが、気が通じるところがあって、よく覚えていた。木田はどちらかというと、役人よりも、
場の雰囲気というものに、まったく
「木田よ、今ならまだ、もういちど見直してもかまわんのだぞ。五匹のままでよいのか?」
「はっ。ネズミは五匹にございます」
「ウム……。よろしいかな。では、
一同が
静けさの中、御医頭が、震える手で、
カタカタと音をたてながら、葢は開かれた。
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