第13話

その日は日差しがポカポカと暖かくて、一番日当たりのいい彼の部屋で、内緒でお昼寝をしていた。


日の光が暖かいのと、シーツに染み込んだ彼のにおいで、あたしはとても心地よい眠りに落ちていた。


ふと気がつくとあんなに暖かかった日差しは少し肌寒くなり、窓から見える景色は夕方の朱色と夜の青黒い色が混ざり合って、紫色がちょっと濃くなった感じだった。


(いけない。もうすぐ彼が帰ってきちゃう)


あたしは急いでシーツを綺麗にする。


あたしが窓を閉めていると……、


「ただいま」


彼が帰ってきた。


あたしは大好きな彼を出迎えに玄関へ走る。


どんっ……がたんっ……。


あたしは何かにぶつかってしまった。


その衝撃で上にあったものが落ちてくる。


見ると、それは写真。


そして、写真に写っていたのは、大好きな彼と知らない女の人……だった。


あたしは分かってしまった。


――彼女は彼の事が好き――


“女の勘”というやつだ。


この二人はお似合い……。


そう考えた瞬間、あたしの頭か胸かを何かが閃光のように駆け抜けた。


あたしは勢いよく部屋を飛び出し、彼の脇を走り抜けていた。


彼が閉めようといていた玄関の扉の隙間からするりと外へ飛び出していく。


彼が後ろで何か叫んでいるようだ。


でもあたしは聞こえない振りをして走る、走る。


あたしにとって一人で外へ出るのは初めてだけど、そんな事を考える余裕は無い。


あの写真の中の女の人の事を忘れたくて、忘れ去りたくて、闇雲に走った。


いつまでも、いつまでも……。


どれくらい走ったのだろうか。


頭が朦朧として、どうして走っていたのかも忘れてしまった。


すごく疲れて、のどが渇いている。


辺りはすっかり暗くなって、月明かりだけが頼りだ。


(ここどこ?家はどっち?)


急に心細くなった。


(家に帰りたい。彼の所へ帰りたい……)


目から雫が落ちる。


(彼に会いたい……)


意識が途切れ、あたしはその場に倒れこんだ。


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