第6話
僕は犬だ。
誰にも飼われていない野良犬。
どこに行っても、どこに居ても、うとまれる野良犬。
ずっと、ずっと人間にうとまれてきた僕は、自分のことなんてどうでもよくなっていた。
いつも1人で、ゆっくり、ゆっくり流れる時間を、ただなんとなく、過ごす日々……。
あの日の夕方もどうするわけでもなく、ただなんとなく、あのベンチに座っていたんだ。
空が茜色に染まってる。
僕は公園のベンチに座って、ただぼーっと周りを眺めていた。
大人達は、僕をさげすむような目で見る。
子供達は、もの珍しそうに僕を指さして、親に合図する。
そんな人間達をよそに、僕はただ、ぼーっとしていた。
ふと気付くと、雨が降りだしていて、人間達はどこかに行ってしまっていた。
公園には、僕1人。
そう思うと、僕はなんだか優越感を感じた。
いつもは人間が占領している公園に、今は、僕が1人。
僕はいつも1人だったけど、そのときだけは、その1人が嬉しかった。
だって、なんだか僕が偉くなった感じがしたから。
……違った。
僕は寂しかったんだ……。
だから、僕は、雨にまぎれて、流れる雫を、誰にも見られなくて、良かったと思ったんだ。
そんなことを思いながら、僕は雨に打たれていた。
彼女が僕に傘をさしだしてくれたのは、そんなときだった。
いつもは僕を避けていく人間が僕のそばにいる。
その上、そばにいるだけじゃなく、傘を、かけてくれている。
僕はこんなことは初めてだってので、とまどった。
けど……、嬉しかった。
人間にもこんな人がいるんだ……。
そう思った。
そのときから、彼女は、僕の存在を唯一認めてくれる人、僕がすっごく一緒にいたいと思う人、僕にとってかけがえのない存在の人になった。
僕はもう、寂しくない。だって、彼女に会えたから。
僕はもう、1人じゃない。だって、彼女がそばにいてくれたから。
彼女に出会って初めて知ったこの思い。
この思いは何なのかな?
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