第12話:月木 テトラの選択⑥
一緒に部屋の前まで戻り「遅くまでありがとう」と
「久しぶりに一緒に寝よ!」
「やだ。何でお前と?キモい」
先輩もおらん夜の廊下で、巴は遠慮もなく有時の肩を抱いて先に部屋に入れた、やらしいやっちゃな。
「そうやなくて!3人で寝よ!待ってて!」
「ちょ、テトラ?」
俺は自分の部屋に駆け込んで、床に落ちた森下の漫画を蹴散らしながら掛け布団と枕を一抱えにし、綺麗に整頓した生活をする二人の部屋に押し入った。
六畳ほどの細長い部屋の、両サイドの壁につけられていた二人のベットを見て、よし!と有時のベットの端を掴む。
「有時、そっち持て!移動さす!」
「え?あ、はい」
二人でベットを持ち上げて巴のベットにくっつけると、俺はその境目に枕と布団を投げた。
「ここで寝る!」
俺の一言にちょっと口元だけで笑いながら見ていた巴がツッコむ。
「何でお前、真ん中?」
「俺が一番、安・全!やからや!」
俺の言葉の真意に気付いたかどうかは分からんが、巴は視線を逸らして小さく舌打ちし、俺より先にベットにのぼった。
有時は呑気に笑いながら「小さい頃、弟とよく寝てたんだよ。懐かしいね!」と嬉しそうに手を叩いて、部屋の入り口にある電気のスイッチに手を掛ける。
俺は寝そべって背中を向けた巴の横に潜り込む、不機嫌に見せながらも内心悪くない時の巴は、判断が潔い。
その照れ屋な背中を見ていると、中学の頃によく巴が泊まりに来てた懐かしい気持ちが蘇った。
2人で畳に布団を敷いて、アホみたいにバスケの話をしながら寝た夜は、何のしがらみもない自由な夜やった。
「はいはい、みんな電気消すよ」
パチっと照明が落ちて、有時が近づく気配がする。
横からベットに一度腰をかけてスルッと布団に入ると、吹き出すように笑った。
「狭くて寝転べないんですけど」
「巴!もっと壁に引っ付け!」
「めり込むわ!テトラの部屋にめり込むわ!」
「お前らが肩幅お化けなんが悪い!」
「テトラがウェイト15キロ落としたらすんなり入るのに」
「あかん、そんなんしたら俺がモテすぎて世界が嫉妬する。お前ら忘れるな、俺の脂肪が世界の秩序を守っとる事を!」
有時が力技でベットに体を押し込んで、俺の方を向いて寝転んだ。
「こっち向かないと落ちるね、あ、テトラ柔らかい」
「落ち着くやろ、好きなだけ揉んだらえぇ!」
ゴソゴソ動いて体勢を整え、枕の下に自分の左手を入れて落ち着くと、背中側に転がってベットから落ちないように俺の腹に手を回した。
「本当は少し眠れる気がしなかったんだ、情けないね」
有時は目を閉じて、俺に向かってやっと弱音を吐いた。寝つきが良すぎる巴はもう寝息を立てている。
「そんな事ない。あの時おった全員、怖かったんや。やから皆んな一緒や、俺も怖いから一緒に寝て欲しかった!」
「お互い同居人がいるのにね」
「同居人かて絶ッ対に、安全やない!」
寝てるはずの巴がごそっと動いて、体勢変えるふりして布団の下で肘鉄をかまし、俺は贅肉で衝撃を吸収する。
俺の脂肪は全ての衝撃を吸収する唯一の吸引力を持つ脂肪。柔らかさで安眠を届け、狼さんから子羊も守るんや!
ベットの境目はちょっと背中が痛いし、上を向いたまま寝返りは一切打てないけど、3人で川の字になって寝るのは懐かしさより心強さが勝ってた。
小学校に行き出して。
俺が近所のアホに親おらん事言われたり、店があるから誰も来てくれへん授業参観の後や、運動会の後の夜は、オジイが俺を2人の寝床に呼んで一緒に寝てくれた。
そんなんいらんし!1人で俺は生きていけるんやから!と内心思ってたけど、1人で布団に入って電気を消したら、急に不安とか、寂しい気持ちとか、ムカッ腹立ったりした事もある。
けど、そんなやりきれん夜も、オジイとオバアが隣でおったら自然と消えて寝てしまって、そんな夜は3人でよかったと思えた。
「テトラ、巴、おやすみ」
「……ん、おやすみ」
有時の声が安心と眠気でいつもより低くのんびりと腹に響いて、それに夢の中の巴が無意識で返事する。
「おやすみ!」
少し硬めで弾力のある有時のおっぱいが二の腕に当たるのを気にしながらも、オバアの痩せた乳を思い出して、俺は少し甘えてそのままにした。
うとうとし出した頃に、ぐすっと、鼻を啜る音がして小さい声で「ありがとう」と有時が言うた気がした。
夢かもしれんし、調べようもないから、俺は黙ってドンと構えて2人の上に自分の掛け布団をボサっと掛け直した。
こんな夜は3人に限る。
次の日、俺と巴は朝から風呂にしけ込んでた。
昨日はバタバタして全員入り損ねた事情を聞いた寮母さんが気を利かせてくれた。
「有時、いけるかな」
大の男が5人一緒に入れる広さの風呂に、2人でのびのびと緩いため息を漏らす。
普段は他人と一緒の湯船を避ける巴も、隣で遠慮なく長い手足を伸ばしてだらっと風呂の淵に後頭部を預けてた。
「大丈夫、先輩達もいるし」
監督の判断は、近隣住民の事も考えて警察に通報やった。
でも、大学側にも色々と話を通さなあかんし、有時の親御さんにも連絡せなあかん。
有時は朝イチから先輩達と一緒に寮を出て行った。
可哀想に風呂も入れてないけど、有時はどんな時も猫みたいに綺麗で臭くない。
ちょいちょいと毛繕いみたいに身だしなみを整えるだけで、いつもより少し疲れは見えていたけど、それなりの見た目に誤魔化して出て行った。
綺麗好きの巴が同居人として認めているだけある。
ガツさんなんかボサボサすぎて警察行くのに前科三班に見えた。
帰ってきたら1人足らんかもしれん。
「二限には間に合うように行かななぁ」
「俺は警察。夜練までには戻りたい」
「そんでもバスケはするんかい」
「俺はバスケするために、この大学に来たからな」
ボワンボワンと湯気に混ざった巴の声が風呂の中に響く。
「俺にはバスケしかない」
そんな事を言いながら、バスケするのに大事な腕を犠牲にしてまで有時の事を助けようとしたやんか。
昨日のヒーローに対してさすがに嫌味かな?と思ったが、ここは風呂場で隣には全裸の幼馴染。
遠慮なく思ってることを言わせてもらおうと思った。
「有時の事、好きなんやろ?」
「…!」
俺の確信を突いた一言に、ザブっっと音を立ててそれこそギャグ漫画みたいに巴が尻を滑らせて湯船に吸い込まれた。
俺は気にせず湯気で霞んだ照明を見上げながら、聞かずとも分かる返事を無視して話を続ける。
「恋愛は自由やし、巴はうつつも抜かさんさかいえぇとは思うけどな」
ザバっと顔をあげてこすり、濡れた前髪を掻き上げる、巴はデコ出した方が男前度五割り増しするけど、それは黙っとく。
「薄々バレてる、思ってたけど、いつから知ってた?」
男前は潔さも味方につけるから隠さんのか。
「中学生の時や。全中の地方予選のスカウティング、俺の家で見たことあったやろ?巴の親、離婚する〜言うてた時や。あん時見た試合に出てた黄色の十七番、有時やろ。
シュートフォームとお前の入れ込み用で分かったわ、テープ擦り切れるくらい一緒に見たしな。
あとは、オトンが離婚しても高校出るまで関西でおるて言うてたのに、急に関東のオカンのとこ行ったや。
俺と関西第一に進学した方がどう考えても南海大の推薦取りやすいはずやのに」
巴は「初めからかよ」と呟いて水面を見つめてる。
俺の名探偵の才能が知らんうちに開花し、問い詰められた巴が口を割る。
「有時のおる東北と関東がアンダーの合同合宿やるやろ、向こうに進学したらそこで会えるんちゃうか?って思ったんや。近くで確認したかった、本物の黄色の十七番の空気を感じたかった」
そうは言うけど無茶するな、とも思うし、でも関東の方が名門大は多いから何かと優位ではある。
もっと真面目な進路やと思ってたけど、巴の脳内は俺が思うより有時にとろけてた。
「ほんまに綺麗やった」
巴の目の方がキラキラして、ハリのある声があってするすると耳に心地よかった。
うっとりと思い出すようにため息をつき、うっすら空いた口からもう一回、声に出さずに「綺麗」と呟く。
そういやあの時の巴も「綺麗」って言いながら、何度も何度もビデオを巻き戻して画面の中の有時を見つめたてた。
「なんか言葉に出来へんけど、もうこれしかないって思うくらい、俺は首っ丈になってん。
でもな、有時、大学の入寮日に久しぶりに会った俺に何て言うたと思う?」
「えぇ?インターハイでも対戦してるし、そら久しぶり〜やろ?」
すると巴は顔をごしごし擦って、最後の一回でプハっと上を向き、前髪を有時と同じセンター分けにすると態とらしい口真似でゆっくり穏やかな声で再現した。
「白瀬くん?巴って素敵な名前だね、初めまして」
「うそやん!お前、合宿中喋らんかったんか?全国大会で対戦した時も挨拶とかしてたやろ!」
「したわ!俺には珍しくめっちゃ話しかけた!合宿中のアップの相方もずっと俺やった!……まぁ、でもこれが結果や。
俺は有時の箸にも棒にも引っかかって無かったんやな。ポジション違ったし」
「逆にお前程の選手を覚えてない有時のがすごいけど」
灯台下暗しどころか、そもそも灯台ごと全見落としてるやろそれ。
一体あいつは何見てバスケしてたんや、案外大物になるのは巴より有時なんかもしれん。
「それがごっつ悔しかったのと同時に、腹の底から湧き上がるなんかがあった。
バスケにハマった時と同じ、運命の感覚。
もしも有時が俺のものになっても、それでも一生追うって決めた。いつか俺がバスケをやり尽くして、引退を考えても有時がおれば、俺はずっとバスケを追える」
恋ちゃうやん。
何て言うんか名前は知らんけど、もうそんなん、恋ちゃうやん。
「有時のシュートフォームとか、プレイスタイルにハマってるだけちゃうん?」
一応確認までに聞いておく。
答えを言わんと巴は先に湯船から出ると、そのまま脱衣所の方に向かった。
しばらく中学の時より仕上がった、そのたくましい背中を見て俺も上がって後を追う。
「そうなら良かったんやけどな」
脱衣場で巴はさっきの続きを話しながらタオルで頭を拭き、はぁ、と厄介そうに溜め息を吐く。
「男の体なんか、なんの興味もないけど」
そう言って俺の突き出た腹をぼいぃんっと叩いた。
「好きなんやって意識したら、有時の全てに魅力を感じるから不思議やな」
「ちょっとその境地は俺には分からん」
俺もマジマジと巴の体を見た、巴の体はかっこえぇ、と正直思う。
俺は太りやすいし、面倒くさがりやからボヨボヨにすぐなるけど、巴は持って生まれたしっかりと大きい骨格と、筋肉もつきやすい。
手足も長くてバランス良く、昔読んだ冒険物の漫画の戦士みたいな逞しさがある。
やから、ここから色気を感じるとなると、ターザン!みたいな男が憧れる男の色気、くらいしか絞り出せん。
首を捻る俺に、巴は自分の新しいパンツを取ってパッと広げた。
「俺かて、男のパンツにも色気なんか感じへん。女の人の小さくてヒラッとした可愛いやつはムラっとくる。
でも、よく考えたらパンツが無かった時代にパンツだけ出されてもただの布にしか見えんで色気なんか感じんかった、って思わんか?」
突然のパンツ談義に俺は一瞬「?」となったが、そうかな?と思うところは無くもない。
頭を捻る俺の横で、フラミンゴみたいに長い足を曲げた巴がスッとパンツを履いて、腰に手を当て俺をの方を向いた。
「でも、好きになった人のプライベートな部分を隠して見せへんようにしてる布って考えたら、すごい邪魔やし、でも、人に勝手に見られんように隠してくれてありがとうって思う。
価値が上がるねん。
ほんで、自分はそんなパンツの奥に触れることが出来る存在であると思ったら、言葉に出来ん優越感がある。そしたらこのパンツの見方も変わってくるって思わんか?」
言葉を一つずつ拾い終えた時、巴の愛用してる全部黒で統一されたいつも通りのパンツが急に輝いて、俺の目の前におパンツ様が降臨した!
「うわぁ!確かに!!今ちょっと、巴のパンツに百円くらいの価値ついた!」
「それは安すぎるやろ、俺のパンツ」
「俺にとってはお前のパンツは爆上がりでそんなもんや。ぶらぶらされてシュートミスらんようにしてくれる、ありがた〜い存在に賽銭投げる感覚やな」
「せめて元値にして」
「ほなおパンツ交渉しとくわ」
二人で頭を突き合わせてアホな会話に大笑いしながら、俺もおパンツさまさまを履いて時計を見上げた。
昨日の疲れを引きずって巴は警察に、俺は学校にいかなかん。
風呂場の湿気がポツ、ポツ、と雫を垂らす音がする。
普段は何でもないその音が次第に大きく聞こえて、俺は開いたままやった脱衣所との隙間を見た。
ポツポツ落ちた水は昨日の俺らの不安みたいに溜まって、さぁっと真っ暗で戻れない排水溝に流れていく。
好きな人が目の前で無惨に暴力を振るわれる姿はそれは怖いし、腹が立つ。
されに自分の危険を顧みず、保身に走らず、暴漢に立ち向かう勇気はほんまにすごい。
確かに1人で突入するよりイブ先輩を待つべきやった、でも、待ってたら有時は……あんま考えたくない。
ものすごい葛藤とせめぎ合いの中に混ざる不安と恐怖、たった19歳の巴は自分の思う最善を選択したんや。
「ごめんな、巴。昨日勢いで俺、酷いこと言うた」
巴は前髪の毛をくしゃっとして、いつも通り額を隠しながら、
「俺もあの時はほんまに言いすぎた、ごめん。有時の気持ちもテトラの気持ちも無視してた。反省してる」
「今日でなんか進展あるといいな」
この言葉に巴は濡れた前髪を指に巻き付けて黙る。
何か気がかりがまだあるのか、落ち着きなく瞬きも多い。
「あの犯人は変態パンツマンちゃう。
俺が見た限りではパンツやなくてパンツの中身を狙ってた。パンツマンは、男のパンツに価値を見出し性欲を満たすけど、あいつは有時の親切をうまく使ってパンツを脱がして性欲を満たそうとしてたんや」
「確かに……ガツさんが言うてたおパンツ交渉の報告も上がってへんしな」
「多分、どこに住んでどう生活してるかもある程度調べられてる気がする。
俺らが名門のバスケ部やって知ってるから、手を出した可能性もある。喧嘩沙汰にして部活動停止になったりすると困るから、派手な抵抗できんやろ」
天才白瀬の名推理。
感心するけど俺は考えすぎちゃうか?ってちょっと引く。
「お前、ほんま気持ち悪いな?やってほんまに有時の事好きすぎやろ!」
「ちょ、どんな感想や。もっとあるやろ?!」
「有時への愛拗らせてんと、実らせろ!」
「上手いこと言うな」
ケラケラ笑って巴が換気扇の電源を押す。
ジメジメした嫌な気分を吸い込む、昔から知ってるイケメンの爽やかな笑顔やった。
選択探偵テトラの推測では、有時が巴に惚れるのも時間の問題やと思う。
この一見真面目で窮屈な男の我儘を受け入れて、悪くないと思う生活を選択してるからや。
今までの無鉄砲な俺やったら、思い立ったらガンガンいってたけど、大人になった俺はちょっと慎重になることを覚えた。
俺が選択を誤って、2人の仲が引き裂かれようもんなら俺は親友失格や。
誰が何と言おうと俺の大事な親友の幸せを守らなあかん。
巴が高校時代のハイスペ彼女と別れた理由は、初恋の有時と大学で再会し、同居人になれたから。
一緒にバスケをしながら並んで生きていけて、一生追いかけれることが、巴の人生の条件にマッチしたんやろう。
巴はハイスペ彼女を一つとばして有時を選んだ。
そして俺もこの2人と一緒に生きる選択をした。
この時はそうやと思ってた。
俺は本物のオカンとオトンを飛ばして、オジイとオバアを選択し、今は巴と有時を選んでる。
今の俺の条件に合うからこの選択に間違いはない。
てか、部内での恋愛ってOKなんやろか?
女子バスケ部とは別やから、高校みたいに女子マネおらんし、規定はどうなんやろか?
この件が落ち着いたらイブ先輩に確認してみるか。
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