第29話
三人はウェスティンが王宮に泊まる時に使う離宮の部屋に移動した。
人払いをしてソファには沈み込むように座ると、誰からともなく大きなため息が出た。
「あの子相変わらず私のことが嫌いだよね。王族ではなくなっても準王族ではあるのに。その人間の前でする態度ではなかったよ」
隣に座っていたウェスティンはため息を吐いてラーシュに寄りかかってきた。何と答えていいかあいまいに笑ってみた。どうやら、笑うことはできた。
「しかもさらっとラーシュの功績を自分のものにする宣言もしてたよな。面の皮が厚くて驚いた」
マティアスは神妙な顔でうつむいたが、すぐに噴き出した。
「あれだけ性格悪いと、遠慮なく嫌えるな」
ラーシュは驚いて目を丸くする。
ニコラウスはラーシュが弟を思う気持ちを搾取し甘えて奪っていく。やっぱりあれは悪意なのだ。悲しいけれど、兄だから甘えてくれていたわけではなかったのだとようやく目が覚めた。
それは二人が教えてくれたこと。愛を言い訳にして人をないがしろにするのはダメだ。愛は手段にしてはならないということなのだろう。正しい判断は正しい環境でしかできない。
今こうやって素直に飲み込めたのもこの場だからだろう。そして心を埋めるのはもうニコラウスには関わりたくないという気持ちだった。
「二人といると先ほどのことなんて、どうでもよくなるから不思議です」
自嘲気味にこぼすと、二人が瞳をやさしくして「そうか」と言う。
「ニコラウスはどうしてあそこまでわたしを嫌ったんでしょう」
ウェスティンはうーんとラーシュと目を合わせると「こじらせてるだけかもよ」と言った。だとしたら、本心は?とまた、心配してしまう。
――わたしの弟だった子。
「あぁ……養子に行った話をするのを忘れていました。もう、彼の兄ではなかったのに」
マティアスがラーシュの頭をぐりぐりと撫でて。
「それが特大の攻撃になりそうだな」と意味深に笑った。
「そういえば、大精霊師様がナーハルテトの精霊教教会で、精霊の輪を披露してくれるらしいぞ」
「へえ、大盤振る舞いだね」
ウェスティンは嫌そうに顔をしかめて、ラーシュにぐりぐりとすがってきた。
「見てみたいですね」
マティアスも同じようにラーシュに身を寄せてくる。重いんだけどなぁと思いながら、三人で旅をした日々を思い出してなんだか懐かしくもあるなと思い返す。
「じゃあ、みんなで見に行こう」
そう言って、また三人はソファに深く沈み込んだ。
「ラーシュ……魔力譲渡しようか?」
なんだか久しぶりの魔力譲渡は恥ずかしいことのように思えて顔が赤くなる。
「いや、えっと……うーん」
「わ、意識してる?わ……情緒が成長してる!」
ウェスティンがのんきな声を上げて、抱きしめてくる。今までの自分は彼らにどうみられていたのだろう。口ぶりは軽かったが、瞳は艶を帯びている。すがるような瞳にラーシュは小さく震えた。
答えを待たず二人からたっぷりと魔力を譲渡されて、ラーシュは体がぬるま湯に浸かった様になる。二人の艶を含んだ満足げな笑みを見ながら、瞼がゆっくりと降りていった。
久しぶりに感じる両隣の重みにラーシュはふやけた笑いを浮かべる。
室内はすでに明るく、昨日寝てしまってから夜を明かしてしまったようだ。ここはどこだろうと視線だけで辺りを見回すが、知らない場所だ。目に入る天蓋は豪華な刺繍とレースをあしらっていて一級品であるのは分かる。布団も驚くほど暖かいのにとても軽い。ナーハルテトでは布団に鳥の羽を使うと聞いたことがある。高級品だが一度それで寝てしまうと手離せなくなるという……多分これだ。肌触りの良さに頬をすり寄せた。
「ん?」
もぞりと動いたせいで両隣の二人も起きたみたいだ。
「おはよう、マティアス、ウェスティン」
二人は遠慮なくラーシュに抱き着くとおはようと言う。だがラーシュはその感触に驚いてしまう。
「え?待って?なんで裸なの?」
「おはよう。だってこの寝心地を堪能するなら脱がなきゃ」
ラーシュはあわてて顎のところまで引き上げた。
「ええ?でもっ……」
「安心しろ、脱がせたのは俺だ」
マティアスが当たり前のように言う。何度か聞いたセリフだが安心するところなのだろうか。
「大丈夫だって、初めてじゃないだろ?何度も見ている」
二人がいっぺんに言うが、何度も見ているからと言って大丈夫ではないだろう。
「ええ?」
「どう?この布団。良いでしょ」
ウェスティンが得意げに言う。
たしかにこの肌触りはすごい。吸い付くようなしっとりとした触感なのに、さらっとしている。ナーハルテトの技術力のなせる業なのだろう。これを直に肌で感じられるのは特別のような気がする。
マティアスがぷっと吹き出して、笑い出した。
「ラーシュ、真面目過ぎて、またはぐらかされている」
そう言われて、自分がこの状況を肯定的にとらえていたことに気づく。ウェスティンは怒ったようにマティアスを睨んでいる。多分『ごまかせそうだったのに』ってことなのだろう。
言い合っていると、目の前に花びらが舞って、光に消える。
『ラーシュおはよう!このお布団僕も気に入った!』
ヨルディスがご機嫌にピーッと鳴く。
「そっか。ならよかった」
「ん?精霊殿か?」
「うん、気に入ったみたい」
「じゃあ、許してくれる?」
ウェスティンはわざとらしく顎に両手で頬にあてて上目遣いをする。なんというかわいらしいポーズだろう。だが大きな男がするとおもしろいだけだ。
ラーシュは吹き出す。
身を張って笑わせに来たウェスティンに敬意を表して仕方なく頷いた。
ウンソンがあきれたように『単純だな、ラーシュは』と言いながら、自分も布団に体を擦りつけていた。皆この布団に大満足だった。
「やはり、こちらへは襲撃はなかったな」
マティアスが伸びをしながらこぼした言葉に驚く。二人が側にいたのはおふざけではないようだ。そして、裸にされたことも意味があったのか。
「ありがとうございます?」
「「ふっ」」
二人が同時に笑うので、ラーシュは布団にもぐりこんだ。この肌触りは最高だ。布団の上から頭を撫でられたが顔を出すには恥ずかしすぎる。
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