【魔国三兄弟編】 ファムータル ~エルベットの残り雪~
桜梨 -Ohri-
魔国編
第一節 禁忌
幼い願い。
魔国編 第一節
楽しい聖祭節の公務をつつがなく終え、また魔国へ向かうために荷物を纏める。
早く、兄たちと一緒に大手を振って、正式にエルベットに帰ってきたい。聖祭節の祝福を一緒にやって、一緒に城下をお忍びで歩き回って……。
(兄様たち、いつも子ども扱いなんだから……)
確かに、兄たちのような政治的手腕もなく、兄たちのような戦える強い身体でもない。しかし、魔力は負けない自信がある。【予見の知】は、兄たちにはないから、そこでも充分に役に立つはずだ。
などと考えながら、聖祭節の最後に咲かせた
皆、熟練した王族でもここまでは咲かせられない、しかもどの鉢も等しく咲いていると褒めてくれた。【
母がくれた名前――ファムータル。
エルベット王族の名前らしくないが、母の形見だ。皆、まさに祝福王子だと言ってくれる。
だが――
特別な名前。自分を大切にしてくれる、自分が愛おしく思っている人だけが呼んでくれる名前。
自分の額の王族冠に触れる。白い石にエルベット・ティーズの紋が入っている。
ファムータルの名前も母の形見だが、この紋も母の形見だ。
そもそも、一度は魔国の王族籍など、兄も自分も捨てたのだ。なのに政治のしがらみで兄が魔国に呼び出され、大変な激務を負わされている。
そんなことをしたのは、魔国の貴族たちだ。
兄は、民主化をして貴族の権力を完全に無くしたらエルベットに帰ると言っているが……元々あったであろう国の名前が消えて【魔国】と呼ばれるなるほど腐った国を正すのは、兄たちだろうと困難だ。
呪いの血を引いてしまった。だからだろうか?
しかし、エルベットの民は、呪われた生まれだろうと歓迎してくれる。
「魔国なんか、ほっとけばいいのに……」
ぽつりと、本音が漏れる。
魔国なんか放り出して、兄が帰ってきてくれれば、ここで一緒に平和に暮らせる。そもそも、エルベットは永世中立国で他国に干渉しない。魔国の生まれだからと文句をつけられただけで、貴族の尻拭いなどしてやる謂れはない。
だが、前にそれを兄に言ったら、優しい顔で頭を撫でられ、
【ああ。だから、早く片付けて、魔国籍なんか捨てような?】
大好きな兄の手が頭をぽんぽんとしてくれるが、魔国を放り出して帰らないという意味だ。
魔国は母様も、サティナ
荷物を纏めるのをやめて、祖父の邸に行く。祖母に出立の言葉をかけていた祖父に、何度も繰り返している思いの丈を言う。
祖父は、自分を一番可愛い孫と言ってくれる。いつも優しいのに、この【お願い】だけは何度言っても叶えてもらえない。
前国王の祖父と、現国王の叔母が言えば、魔国の貴族を黙らせて兄をエルベットに呼び戻せる。エルベットに逆らって生き残った国はない。
「すまない。
いつもの返事だ。どうしてもだっても聞いてくれない。
兄は、十二歳の祝言の直前に魔国に引っ張られ、正式な王族のお披露目もすることもなく、一度もエルベットに帰る暇もなく働いている。
兄様だけなんで?
兄様がしないといけないの?
その問いに返事はない。
あの時――魔国の貴族が無茶な要求を言ってくる前まで、この城で平和に一緒に居た頃に戻りたい。
仮定や過ぎたことを言うなと言われても、そう思わずにいられなかった。
◆◇◆◇◆
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