第24話 苦悩
「――という訳で、今晩だけいい。この村に泊めてもらっても構わないだろうか?」
「ええ、勇者様の頼みですとも。一向に構いません。何もない田舎村ですが、それでもよろしければ」
「ああ、感謝する」
「ありがとうございます、村長」
「ありがとうございます」
日が完全に暮れる前に、俺達は村に着くことができた。その後は、村長宅を訪れ今晩泊まる許可をもらいにいった。
交渉自体は何の問題もなく、アレンが担当してくれた。村にいた時は、こういったことは主にマリーや俺がしていたので、アレンもこの旅で色々と成長したものだ。
マリーも関心したようにアレンのことを見て――はいなかった。ちらちらと俺の方を見ていた。
少しガクッっとなりそうになったが、いつものことだ。気にしないようにしよう。
「……では、勇者様は私の家で。聖女様やそのご友人様は……そうですね。ヴァンプという村人の家に泊まっていただきましょう。
ああ、大丈夫ですよ。勇者様。ヴァンプは女性の一人暮らしですので、何も問題は起きませんよ」
「いや、別にそういった心配はしていないが……」
そんなアレンと村長のやり取りを尻目に、村長の奥さんにヴァンプの家に案内された。
(……ついにヴァンプとご対面か。相手の正体について知っていることを勘づかれないようにしないと)
「――さん。クリアさん。着きましたよ」
「ごめん、マリー。ちょっとぼうっとしてたわ」
そう思い詰めていると、いつの間にかとある民家の前に立っていた。どうやら到着したらしい。
マリーに一言謝罪を告げていると、村長の奥さんが玄関の扉を軽く叩きながら家主を呼ぶ。それから、少し経った後。「はーい」と返事があり、扉が開けられて家主が顔を出す。
「お待たせしました。……村長の奥さんですか。夜遅くにどうしたんですか?」
姿を現したのは、外見が二十歳前半程度の金髪の女性であった。紅い瞳が印象的である。彼女こそが、
「夜分に申し訳ないわ。ヴァンプさん。この方々を泊めてもらってもいいかしら?」
「はい。私は構いませんが。……私の名前はヴァンプです。狭い家ですが、どうぞ寛いで旅の疲れを癒してください」
「よろしくお願いします」
「どうもお世話になります」
そこで村長の奥さんとは別れて、俺達はヴァンプの家に足を踏み入れることになった。
■
――それから気がつけば、この村に滞在して二週間が経とうとしていた。本来であれば、一晩だけという話であったのだが、村長の方から「最近はモンスターが村の近くによく現れますので、よろしければしばらくの間この村に留まって魔物を討伐していただけませんか? もちろん、報酬はお支払い致します」という申出があった。
旅の目的を考えれば、すぐにでも旅立つべきなのだろうが、人の良いアレンやマリーは一瞬の迷いなくその依頼を受けた。
まあ、俺だってよっぽどのことがなければ目の前で困っている人を見捨てたりはしない。
というか、その村長からの依頼自体はゲームにもあった。なので、何ら問題はない。今日も今日とて、三人揃って村近くの森に大量発生していたゴブリンの群れを狩っていた。
危うげなく、アレンとマリーがゴブリンの群れを殲滅し、念の為に俺が『回復能力』を二人に向けて行使する。
(……これって、俺いらなくないか?)
そんな卑屈な思いに駆られそうになるが、必死にそれを心の奥底に押し込める。俺は微力ではあるが、二人の役に立っている。そう自分に言い聞かせた。
(……俺のことより、ヴァンプの対策について考えないと)
初めて、ヴァンプの家で泊まって以降。彼女に怪しい点は全くなかった。魔族特有の気配を隠蔽する魔法を使っているだけで、特に村人達から血や魂を蒐集している様子は見られない。
俺達が村に滞在しているので、一時的に中断している。という訳でもなさそうなのだ。マリーに調べてもらっても、村人には何の異常もなかった。むしろ健康そのものだった。
それに勇者のアレンや聖女のマリーがすぐ近くにいるというのに、怯えた様子の一つもない。無理をして取り繕っている訳でもない。
敵意を俺達に抱いている様子もない。
ヴァンプは魔族であることを隠してはいるが、何一つ問題なく村人達と暮らしているのだ。訳が分からなかった。俺が知っているヴァンプは、善人の皮を被って村人達を欺き続ける悪辣な魔族であったはずなのだが。
(……これもバタフライエフェクトなのか? どっちにしろ、このまま状況を維持する訳にはいかない)
いずれはこの近辺のモンスターは倒し切り、この村を旅立つだろう。だが、ヴァンプのことを放置するつもりは一切ない。
今は上手く、俺達すらも騙している可能性があるからだ。
もう時間的猶予はない。
(……明日にでも、ヴァンプの真意を尋ねないと)
そう俺は決心した。
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