第23話 乙女心は難しい
「……どうしましたか、クリアさん?」
「いや、別に何もないわ。早く行きましょう」
「……」
私の問いに対して、何でもないと返すクリアさん。しかし、本当に問題ないと思っているような表情ではなかった。
十中八九これから向かう村、そこにいる魔族について考えているのだろう。
当然数え切れない繰り返しの中で得た経験で、今のクリアさんが何について悩んでいるかを知っている。
むしろ、その後の村人達への対応の方が苦労したものだ。彼らからしてみれば、信頼の厚い村人の一人が余所者にいきなり殺された。
そういう認識だろう。説得をし納得してもらうのにも、相当な時間を要した記憶がある。
二回目の時は、この村に訪れるまでヴァンプのことは忘れていたぐらいだ。他の出来事に関心を寄せられる程、当時の私にはそれだけの余裕はなかった。
そのせいで、二回目は魔王の顔を見る以前に旅の途中で魔族の攻撃から私を庇ったことでクリアさんは死んでしまった。
『――あああああっ!? 嫌だ嫌だ!? 今度こそは守るって決めたのにっ!? 早く、戻れ戻れっ!?』
その時の自分の絶望の叫びが、悲鳴が想起される。二回目ということもあり、次も■■と名乗る女性から得た『世界全体の時間を巻き戻す』力が効果を発揮する保証もなく、ただただ不安に駆られていた。
もちろん結果的には成功したが、あまり精神的に良いことはない。その後も、何度も力を使用してきたが、その度に精神が摩耗している。限界は近いのかもしれない。
だけど、私が壊れたとしてもクリアさんだけは必ず――。
(――今はそんな当たり前のことを考えている場合ではありません)
目の前の問題――ヴァンプのことに集中しなければ。基本的に私にとって、クリアさん以外はどうでもいい。例外はアレンのみ。
そんな私であっても、ヴァンプのことを無視することはできない。
ヴァンプがただの魔族として。悪意を持って村人達を騙していれば、何も問題はなかった。優しいクリアさんであるから、多少の尾を引いたとしても、時間が経てば精神的に持ち直していた。
だけど、真相はそうではなかった。少し語弊もあるが、ヴァンプは魔族でありながら、村人達と本当の意味で共存していたのだ。
魔族であることを明かしていたのは一部の者だけだったようだが、それでも驚くべきことだ。
旅の道中で他の国や村を多く見てきたが、この村のように魔族と一緒に暮らしている場所は皆無であった。
そんなヴァンプが、何故村人達から血や魂を蒐集していたのか。全てが済んだ後、軽く調べた時に判明したのは、ヴァンプが血や魂の蒐集を開始したのはつい最近だということだった。
幾度も周回してきた私は、当然その理由を知っている。ヴァンプは脅されていたのだ。自分よりも高位の魔族――『十三大魔族』の一人によって。
その脅しの内容はこうだった。
「勇者一行が村に数日滞在する。隙を突いて、誰でもいいから殺せ。分かっていると思うが、このことをバラしたらお前の大切な村人達は俺が殺す。
後、俺の食事代わりに村人の血や魂を献上しろ。殺さないだけ、有り難いと思えよ?」
しかも、これはヴァンプ自身ではなく、後に相対した当の『十三大魔族』から直接聞かせられた。
その事実を、真相を知ってしまったクリアさんは、一瞬だけとはいえとても悲しそうな、悔しそうな表情を浮かべて。意識をその場ではない、どこかに飛ばしてしまっていた。
だけど、それは『十三大魔族』の前では致命的な隙となり、その周回のクリアさんは命を落としてしまった。
それを回避する為に、別の周回では私がそれとなく事情を伝えた次の日には、自責の念に耐えれなかったのか、クリアさんは首を括っていた。他には――。
この通り、ヴァンプに関連した出来事はクリアさんの生死に大きく影響する問題なのだ。慎重に立ち回らないと。
(――クリアさんが死ぬのは、私以外の女のことを引きずるのは、もう見たくありませんもの)
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