第9話 断章 ■■との取引
『――ねえねえ、お嬢さん。よかったら、相談に乗ってあげるわよ』
私が故郷の家にある自室にて、引きこもっていた時。女性の声がした。
『え?』
『はーい。こんにちは。何かお困りのようだし、お姉さんに何でも話してごらんなさい』
えっへん、と聞こえてきそう程に自信満々に話す女性。いや、そもそも誰だろう。この人は。私は見覚えがない。家族でもないし、村の人だろうか。
私達が魔王討伐の為に、村を出発して数年。その間に全く帰っていないことはないが、他所から移住してきた人がいてもおかしいことではない。
それだけ、各地に刻まれた魔王による爪痕は激しいものだった。
でもだからと言って、目の前の女性が私の自室にいることの理由にはならず。自分で言うのもなんだが、今の私は到底人と話せる精神状態になく、両親やアレンが無断で人を通すようなことをするはずもない。
――つまりこの女性は誰の許可もなく、勇者であるアレンにも気づかれずに私の前に姿を現したということになる。
ボロボロの精神状態ではあるが、旅の中で培った戦闘用の思考に切り替えて、女性に向かって警戒の視線を送る。それを向けられても、女性の態度はのほほんとしたものである。
改めて、暫定不法侵入者の女性の全体像を見る。髪の色はこの辺りでは珍しい黒髪に、瞳の色も同色。容姿の方も非常に整っていて、同性の私から見ても美人と思う程。
ただその容姿のせいで、正確な年齢は外見だけでは判別できそうにない。
『あらあら。そんなに熱い視線を送られても、困っちゃうわ』
『……いい加減に巫山戯るのはよしてください。私の前に現れた目的は? 復讐ですか?』
女性に対して、そう問いかける。確かに私達は魔王を倒しはしたけれど、犠牲者がゼロだった訳ではない。それを恨んで、直接的な戦闘能力が一番低い私をターゲットに選んだ。
一番高い可能性を鎌をかけるつもりで質問をし、女性の反応に注視する。目的を探る為に、また隙を突いて家にいるだろうアレンにこのことを伝える為に。
そんな私の思惑を見抜いているかのように、女性はより一層笑みを深める。
『あら。本当に勇者君を呼ぶつもりかしら? 私は別に構わないけど』
『……!』
否、私の考えは筒抜けらしい。そうなると不味い。女性は勇者であるアレンの存在を脅威と思っていない。そういうことになってしまう。
女性の正体はさっぱり分からないが、それが判明する前に殺されてしまうのだろうか。
(……いや、それでもいいでしょうか。魔王は倒しましたし、もうクリアさんはどこにもいません。この世界に未練はないですしね)
体から力を抜く。抵抗する意味や気力もなくなってしまった。私がこれからどうなるかは不明だけど、両親や村の人達のことはアレンが何とかしてくれるはず。
相手の強さはアレンより上かもしれないが、旅の途中ではそんな戦いばっかりだった。だから、私がいなくても大丈夫。
諦めた私の様子を見て、私の方に一歩ずつゆっくりと近づいてきながら口を開く。
『大丈夫大丈夫。安心して、お嬢さん。別に貴女を殺しに来た訳じゃないの。むしろ、その逆。貴女を助けに来たのよ。
最初に言ったでしょう? 困っていることがあったのなら、相談に乗ってあげるって』
『私は――』
やはり、私の精神状態は普通ではなかったらしい。さっきまで警戒していた相手に、ぽつりぽつりと話し始めていた。
初めて貴女やアレンとあった時の話。皆んなで森に遊びに行き、帰るのが遅くなって大人達から叱られてしまった話。魔王討伐の旅に行くことを断る貴女を、私とアレンの二人がかりで説得した時の話などなど。
他にも、いっぱいの話をした。
全てを話し終えるのに、とても時間がかかったような気がする。しかし、女性は長話に付き合わされたというのに、嫌な顔一つすることなく。うんうんと頷いたと思ったら、こう言葉を溢した。
『――お嬢さん。そのクリアっていう子のことが好きだったのね。そんな大事な人が死んだら悲しいわよね』
そうだ。彼女の言う通りで、私は
私のボロボロな心を惑わすように、女性は言葉を続けた。
『――ねえ、お嬢さん。もしも全部をやり直して、最愛の人を助けられるなら。貴女は
その甘い誘惑に、私は――。
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