第2話 状況整理

 ――『英雄の誓い』。それは、俺がモブキャラ転生を果たしたゲーム世界のタイトルである。世界観はよくある剣と魔法なヨーロッパ的なもの。

 同じ村に住む主人公が勇者に、ヒロインが聖女の力に覚醒して、世界を巡り仲間を集め。人類を滅ぼそうとする魔王やその軍勢に立ち向かっていく。



 そんな王道のストーリー。ちなみに、ゲームジャンルはオーソドックスなコマンド式RPGだった。まあ、現実となったこの世界では、「ステータス・オープン!」と口に出すだけで自分の能力値が確認できる――ということはない。当たり前だが。



「……だけど、これからどうするべきかな?」



 広くも、極端に狭くもない木造の我が家の自室で、俺は今後の取るべき方針について考えていた。昨日、アレンやマリーの仲睦まじい姿を見たことで、改めてこの世界で果たすべき目的を強く意識していた。



 ゲームにも存在していなかった誰も欠けることないハッピーエンド。それの実現が今生の俺の目的なのだが、達成には多くの困難が予想される。



 ラスボスである魔王に、幹部的なポジションの『十三大魔族』。各地のダンジョンの奥に潜む凶悪なモンスター達。

 そして敵は人外の存在だけではなく、同じ種族である人間にもいる。飽くなき支配欲を持ち、徒に戦乱の火を拡大させようとする愚王や、邪神を信奉する狂信者達の集団などなど。



 何か一つのボタンをかけ間違えれば、世界を滅ぼしかねない爆弾が数え切れない程に眠っている。もちろん、その全てが一斉に出てくることはゲームでもなかった。

 ラスボスの魔王やその部下の『十三大魔族』は基本的にどのルートでも戦うのだが、それ以外はストーリーの分岐次第では戦わないどころか、登場しないことすらざらにある。



 まあ、そこは置いておくとして。これだけ危険な世界で、公式にもお出しされることのなかった幸せな結末の実現は中々に難題である。

 それに今の俺は、ただのモブキャラ。何の力もなく、アレンやマリー達の前に立ちはだかる敵を陰ながら排除することは不可能に近い。



「うーん……」



 悩む、悩む。

 やはり転生特典なんてない俺には、所謂『原作知識』と呼ばれるものしか頼れるものはない。この武器を活かす方法はざっと二つ程思い浮かぶ。



 一つ目は、何れ訪れるであろう魔王討伐の旅に同行して、アレン達の近くで彼らの手助けをする。これならば、何かイレギュラーな事態が発生してもすぐに対応できるので、一見良い方法に思える。



 しかし、俺という異物が混ざることで余計に不測な事態を招くことになりかねない上に、元々の関係性が一番だと考えている。

 それを自分から壊すなんて、とんでもない。



 という訳で、俺が選ぶべき方法は二つ目。物凄く心は痛むが、このままアレン達には冷たい態度を取り続けて、自然に彼らと俺の間にある関係性の消滅を狙う。

 そして、物語の開始――つまりはアレン達が村を旅立つのを見届けたら、俺も裏で暗躍し死亡フラグになり得る強敵を人知れず倒していく。

 うん。我ながら完璧な計画だ。



 だが、それを行うには俺の実力が足りない。というか、いくらゲームの世界と言っても、何の訓練も受けておらず、才能のない十歳の少女の肉体ではそもそもスタートラインにすら立てていない。



 ならば物語が始まる前で今の俺がやるべきことは、RPGではお約束のレベル上げ――この世界にそんな概念はないが――である。



 と意気込んでみたものの、やはり現状の肉体では序盤の雑魚敵ですら倒せない上に、両親や他の村人達の目を掻い潜って村の外に出るのは無理難題だ。



 また行き詰まってしまう。原作知識の中に、手詰まりの状況を打開する為のヒントがないと探っていると。我が家の扉を叩く音と、小さな来訪者達の声が聞こえてきた。



「クリア! 遊びに来たぞ!」

「クリアさん! いらっしゃいますよね?」



 もう聞かなくとも声の主達が、誰なのか分かる。アレンとマリーの二人だ。



「はあ……」



 演技とはいえ、あれだけ突き放しているのに仲良くしてこようとするコミュ力は流石としか言いようがない。

 しかし、アレンが積極的に関わってこようとするのは彼の性格上理解できるが、ゲームでのマリーを知る俺には拭えない違和感が纏わり続けている。



 何度も感じる喉に魚の骨がひかかったような違和感の正体を探る為に。目の前に迫ってきているアレンとマリー厄介事をどうやってやり過ごすかを考える為の息抜きを兼ねて。

 俺は彼らと初めて会った時のことに、意識を飛ばすことにした。

 これは現実逃避ではない。決して。



 そう誰に対してか分からない言い訳を内心しながら、俺は全てが始まった――始まってしまった時のことを思い出す。


 

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