【17話】ちょっと物足りない日々
生徒達が下校していった放課後。
ルドルフ魔法学園の職員室。
自席に座るエレインは、ぼんやり上の空だった。
ボーっとしなかがら、天井を見上げている。
どうにも集中できていない。
そうなっている原因は、今の日々にちょっとした物足りなさを感じているからだ。
といっても、毎日がつまらない訳ではない。
講師としての仕事や、フィオと過ごす時間は楽しい。充実している。
それでも物足りないと思ってしまうのは、
(リファルト様、早く戻ってきてくれないかしら……)
リファルトがいないからだ。
彼が屋敷を発ってから、二十日ほどが過ぎた。
この期間を経て、気づいたことがある。
リファルトと過ごす時間はとても楽しく、エレインの中でかなり大きなものとなっていた。
それが急に無くなってしまったものだから、日々を寂しく感じてしまう。
胸にぽっかりと穴が空いてしまった気分だ。
「最近元気ないわね」
近づいて声をかけてくれたのはエレインの仕事仲間である、グレイシアだった。
心配そうに、エレインを見つめている。
「心配事でもあるの? 私で良ければ相談に乗ろうか?」
「……色々とね。でも、もうすぐ終わるから大丈夫」
仕事の期間は一か月ほど――リファルトは、そう言っていた。
つまり、あと十日ほどしたら帰ってくるのだ。
そうなれば、いつも通りの日常が戻ってくる。
今感じている物足りなさも、きれいさっぱり解消されることだろう。
(あと十日! …………あと十日もか)
よく考えてみたら、まだまだ先は長い。
大丈夫とは言ったものの、ブルーな表情になってしまう。
「やっぱり変よ……あ、そうだ!」
神妙だったグレイシアの表情が一転。
ぱあっと明るくなる。
「仕事終わりに、美味しいものでも食べていきましょう! こういう時は、気持ちの切り替えが大事なの!」
「だから大丈夫――」
「ダメよ! もう決定したから!」
強引に押し切られてしまう。
このモードに入ったことは今までにも何度かあるが、こうなってしまったときのグレイシアは、決して意見を曲げることはない。
エレインにはもう、決定権はなかった。
太陽が沈み始める頃。
仕事を終えたエレインとグレイシアは、王都の街を歩いていた。
しかし、二人きりではない。
そこにはもう一人。
燃えるような真っ赤な髪をした、若い男性がいた。
男性の名は、フレッド。
エレインやグレイシアと同じく、ルドルフ魔法学園で講師をしている。
そして、グレイシアの婚約者でもあるのだ。
「あっ! 私、学園に忘れ物しちゃった! 悪いけど、先に二人でいってて!」
慌てて走り去っていくグレイシアに、エレインとフレッドは手を振る。
「あいつって、結構抜けてるところがあるんだよな。危なっかしくてしょうがない」
「そういうところが可愛いよね」
「まぁな」
残された二人はグレイシアに言われた通り、レストランへ向けて歩いていく。
賑やかな談笑の声が響く。
髪の色と同じで、フレッドはとても明るく活発な性格をしている。
おかげで、エレインはすぐに打ち解けることができていた。
グレイシアと同じように、彼ともフランクな関係を築けている。
少々血の気が多いのが難点ではあるが、婚約者のグレイシアがそれをうまく諌めている。
二人はとっても相性が良いのだ。
途切れることなく談笑を続けていたら、いつの間にか店の前に着いていた。
「今日は俺のおごりだ。いっぱい食えよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
軽口を叩いた、そのとき。
突如として、ガッと後ろから腕を掴まれてしまう。
「なになになに!?」
心臓が飛び出しそうになりながら、エレインは後ろを振り返る。
(リファルト様!?)
腕を掴んできたのはなんと、リファルトだった。
青色の瞳を大きく見開いていた。
急いで駆けてきたのか、髪がクシャっと乱れている。
呼吸も荒い。
「エレイン。その男はいったい――」
「おい、てめぇ! エレインに何しやがる!」
フレッドがリファルトを睨みつける。
鋭い眼光はギラギラとしており、明確な敵意を放っていた。
「……それは俺のセリフだ」
対するリファルトも、一歩も引くことなく負けじと睨み返した。
バチバチと飛び散る火花。
触るな危険。一触即発の雰囲気だ。
「随分とエレインと親しいようだが……貴様、何者だ?」
「あ? そんなの答える義理はねぇよ! この不審者野郎が!」
「な!? 不審者だと! ……聞き捨てならんな。いいか、よく聞け赤髪。俺はエレインの…………エレインの、パートナー? いや、違うな。であれば、利害関係者か? いや、どこか違う気もする。俺はエレインの何なんだ?」
最初の威勢はどこへやら。
首を傾げたリファルトは、口ごもってしまった。
しかも、
「なぁ、君はどう思う?」
最後はエレインに振ってくる始末。
「私に聞かないでください!」
意味不明なキラーパスに声を張り上げる。
(あーもう! なんなのよ、この変な空気は!)
「ごめんフレッド! 明日、ちゃんと説明するから! グレイシアに謝っといて!」
何が何だかよく分からないが、今のままではまずい。
リファルトの腕を掴んだエレインは、引きずっていくようにして強引に歩き出した。
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