第11話 決戦
朝。
スマホの液晶は割れたままだが、記憶は確かに残っていた。
何も言わずにそれを破壊することもできたが、そうするのはあいつに申し訳ないように思われてできなかった。
俺は、あいつの姿を求めて過去にあいつと遭遇した場所に向かう。
まずは歩道橋。
そこから近い公園に、学校。
ファミレスも覗いた。
しかし、そのどこにもあいつの姿はなかった。
それだけじゃない。
他の人間も、鳥や虫さえもどこにもいない。
スマホが壊れたままだから、世界も壊れたままなのだろう。
諦めて家に帰ると、人の家のソファーに堂々と寝転んでいるあいつが目に入った。
「――……あ、おかえり」
「ただいま。……って、ちげー」
ケッと吐き捨てた俺だが、何故かあいつの姿を見つけて安心してもいた。
一人ではないということは、これほどまでに安心感を与えるのか。
「今日はどうする?」
何して遊ぼうか、と問い掛ける子供のような無邪気さで聞いてくるが、これは俺の命に関わる話だ。
迂闊な返事はできない。
「もう、やめよう」
「えっ!?」
俺の申し出に、あいつは悲鳴のような声を上げた。
それもそのはず。
契約が反故になれば、もちろん報酬もなくなってしまう。
俺に対して相当な時間を割いてきたあいつにとっては、大きな痛手となることだろう。
だから、俺は別の提案をする。
「死ぬのはもう十分だ。百なんて言わない。これで最後にしよう」
「そんなっ……」
誰よりも俺の死を求めているはずのあいつが、なぜか目を見開いて悲しげに肩を落とした。
「どうした? 情でも移ったか?」
「……っ、違うよ」
強がっているものの、あいつの瞳の奥は大きく揺らいでいた。
もう既に、俺のことを直視できていない。
「一番楽なので頼む。苦しいのはこりごりたよ」
苦笑した俺に、あいつはふるふると首を何度も横に振った。
「なんだよ、安楽死はないってのか? ホント鬼畜だな」
「そうじゃ……なくて。なんか、こう……」
上手く言葉にできないもどかしさだけが伝わってくる。
だが、俺にとってこいつはただの危険人物。
下手な同情は禁物だ。
「早くしろ。さもないと……――」
言いながら、俺はポケットからスマホを取り出してテーブルに置く。
そして、物置から持ってきた金槌を右手で持つと、大きく振り上げた。
金槌の振り下ろされる先には、スマホ。
何やら重要なものと思われるそれを引き合いに出すことで、あいつを揺さぶる。
「十、……九、……八、……」
まだ動く様子を見せないあいつに、更に追い討ちをかけた。
「……っ」
かちゃり。
金属音に目を向ければ、あいつの手には一丁の拳銃が握られていた。
それが俺のこめかみに押し当てられる。
引き金が引かれるのだと思ったが、あいつはその状態のままで静止した。
形勢逆転、かな?
なんて思いながら俺はカウントを再開する。
「七……、六……、五……、四……。
――おい、いいのか? 早くしろ」
「うるさい。君は大人しく数えていればいいだろ? ゼロになる前に、撃ってやるよ」
口では強気なことを言っているが、手の中の拳銃は小刻みに震えていた。
「三……、二……、一……」
ゼロ、と言う前に、俺は金槌を振り下ろし始めた。
あいつの指も、引き金にかかった。
「ゼロ」
その言葉と共に、俺の金槌は叩き付けられ、あいつの銃口は火を噴いた。
「……、生きて、る?」
間近で聞こえた銃声のおかげで耳が若干おかしいが、体に痛みはない。
もしかしたらここは死後の世界なのかも知れないと思ったが、それにしては妙な奴が目の前に居る。
「お前……どうして」
「君の方こそ」
傷一つない、そのままの姿のあいつが、そこにいた。
俺の振り下ろした金槌は、スマホからずれたところの材木を打ち、テーブルに深い傷跡を残していた。
あいつが放った銃弾は、俺から大きくそれた壁にめりこんでいた。
二人とも、決定打が打てなかったのだ。
「……っ、何だよ。期待させといて、そんなオチかよ」
「そんなって何だよ。君こそ幻滅だね」
あいつの言葉に、俺の対抗心がくすぐられる。
「俺はほら、ずっと金槌振り上げてたから腕が痺れたんだよ。お前はわざとだろ?」
「僕だって拳銃を使うのは初めてだったんだよ。仕方ないだろ」
負けじと言い返してくるあいつに、俺も更に言い返す。
そして、終わりのない口論は続いていった。
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