第10話 決壊する心
倉庫を出た後の車内は、張り詰めた静寂に包まれていた。
助手席の信長はシートに身体を沈め、視線をぼんやり窓の外に向けていた。その横顔には、いつもの強気な表情はなく、どこか儚ささえ感じさせた。
ハンドルを握る家康は、横目で信長を何度も確認する。
「……痛み、ほんまに大丈夫ですか? 病院に寄った方がええんちゃいますか」
家康の言葉はまるで壊れ物を扱うようで、それが信長にはひどく不愉快だった。
「……さっきからお前、俺様をどんだけ弱い思っとんねん」
信長はふいに、強がるような声を出した。家康は少し戸惑ったように言葉を詰まらせる。
「ですが……あなたに無理はさせられませんから」
家康の迷いを含んだ口調に苛立ちを覚えた信長は、強引に家康の手を掴み、彼の視線を自分に向けさせる。
「……俺様を誰やと思とんねん? お前に心配されんでも平気や。これくらいのことで潰れたりせんわ」
強がりを含んだ声音だったが、その瞳はいつものように鋭く力強かった。その瞳を見た家康は少し驚いたように目を見開き、やがて柔らかく微笑んだ。
「……そうですか。なら、私の心配も無用でしたね」
信長はふっと顔を背け、小さく舌打ちをする。
「お前は俺様を何や思うとるんや……ほんま、調子狂わされるわ」
家康は嬉しそうに笑みを浮かべながらも、内心では安堵を感じていた。信長が自分らしさを取り戻したことが何よりも嬉しかった。
---
車が高級マンションのエントランスへと滑り込むと、信長は初めてここがどこなのか気づいた。
「……おい、ここって北条財閥の関係のマンションやろ? なんでお前がこんなところに?」
家康は表情を変えずに、穏やかに車を降りた。
「ええ、実はここは私のマンションです」
「は?」
家康の答えに信長は目を丸くする。思わず追いかけるように車から降りた信長を、家康は軽く促しながらエントランスへ歩き出した。
「私、ほんまは北条家の人間なんです。表向きは武田商事の課長をしていますが、実際は北条財閥の関係者……正直、隠していて申し訳ないと思ってましたけど」
家康がさらりと告げると、信長は呆れ半分、驚き半分で言葉が出てこなかった。
「お前……なんちゅうやつや。そんな隠し玉持っとるなら、早よ言わんかい……」
「色々と面倒が増えますからね」
家康は苦笑しながらエレベーターのボタンを押す。信長はその横顔を見ながら、小さくため息を漏らした。
「……ほんま、調子狂わされっぱなしや」
---
家康の部屋に通されると、窓から見える夜景が二人を柔らかく照らしていた。
「……ふぅ、やっと落ち着いたわ」
信長がソファに座り込み、疲れを吐き出すように呟く。
家康はその姿を見てすぐに医療箱を手に取りながら信長に近づき、丁寧に傷を消毒し始める。
「……なんでこんなタイミングで明智を追ったんですか?」
家康の問いに、信長は苦笑しながら目を伏せた。
「産業スパイの明智を追っとったんや。浅井・朝倉に近づいて、うちを売ろうと企んでるのがわかってな。そしたら、まんまとあいつらの手にはめられたってわけや」
「……ほんま、無茶しすぎです」
家康がため息混じりに言うと、信長は反射的に口を尖らせる。
「……まあ、だからってお前が俺にGPSつけるとか、やりすぎちゃうか?」
家康は優しく微笑んで頭を下げた。
「それは謝ります。ただ、あなたが危険な目に遭うくらいなら、嫌われても守ったほうがマシや思うたんです」
「……別に嫌いになるわけないやろ」
小さな声で呟いた信長の頬は微かに赤く染まり、家康はそんな彼を見て、胸が暖かくなった。
「ほう……嫌いやないんですね?」
「……あほ、調子乗るな」
信長は顔を赤らめながら家康の袖を再び無意識に掴んだ。
家康は嬉しげに微笑んだまま、その手を握り返す。
「今日はゆっくり休んでください。あなたがこれ以上無理をしないように、私が傍で見てますから」
信長はその言葉に抗議する気力もなく、ただ静かに家康の傍らに寄り添う。
「……お前はほんまに調子狂わせるな」
「ふふ、あなたも大概ですよ」
ーー少しあとーー
マンションの静かな一室で、丁寧な手つきで信長の傷を手当てしていく家康。
その指先が肌に触れるたび、信長の胸は妙にドキドキと鼓動を速めてしまう。
「痛くないですか?」
家康の優しい声に、信長は小さく唇を尖らせながら返した。
「……お前さっきから丁寧すぎんねん。俺はそんな壊れ物ちゃうぞ」
「そうですか? でも……織田さんの肌、思たより繊細で傷つきやすそうなんでね」
家康はクスリと笑い、傷口の周りを指でそっとなぞる。その甘やかな感触に、信長はびくりと小さく震えた。
「……っ」
「ほら、やっぱり敏感なんですね」
家康が囁くと、信長は頬を染めて目を逸らした。
「うるさいわ……いちいち触り方が丁寧やねん。もっと普通に扱えや……」
その拗ねたような声を聞いて、家康の瞳が楽しげに光った。
「普通って、例えばどんな風にです?」
信長は少し恥ずかしげに視線を泳がせる。口元を指で隠しながら、小さく呟く。
「その……もっと雑に、いじったり、構ったりせえや。こんな丁寧にされると、調子狂うねん」
家康はその言葉に一瞬驚いた後、ゆっくりと微笑んだ。
甘く、意地悪な笑みだった。
「ほう……それはつまり、もっと私に構ってほしい、言うてるんですか?」
「……っ、ちゃう! そんなん言うてへん!」
慌てて否定する信長だが、頬はますます赤くなり、必死に視線を逸らそうとする。
家康は楽しそうに彼の顎をそっと持ち上げ、わざと顔を覗き込んだ。
「ほんま素直やないですね、信長さんは」
「っ、お前ほんま性格悪いな!」
「ああ、そうかもしれません。でも、あなた限定ですよ」
家康は甘く囁くようにそう言うと、意地悪く信長の耳元に唇を寄せる。
「……もっとあなたを構って、いじってええんですね?」
信長の背筋がゾクリと震える。だが、家康に煽られれば煽られるほど、心の奥が甘く熱く燃えていくのを止められなかった。
「……もう、好きにせぇや……」
拗ねたようなその一言に、家康の瞳がますます熱を帯びる。
「ええ、遠慮なく。――あなたが後悔するくらい、今夜は構って差し上げますから」
---
家康の甘く意地悪な言葉に、信長は心臓が跳ね上がるのを感じていた。頬の熱は引かず、妙に胸が締め付けられるようだった。
「……お前、ほんま何考えてんねん……」
口では文句を言いつつも、信長は素直に家康から離れられなかった。むしろ、家康の態度がもっと強引になればいいとさえ思ってしまう自分に戸惑っていた。
家康はそんな彼の表情を見逃さず、からかうように唇の端を上げる。
「言うてることと、態度がちぐはぐですよ。そんな顔されたら、私も抑えきれなくなりますけど」
「……っ、うるさいわ」
信長は赤面しながら視線を落とす。だが、家康はその顎を指でそっと持ち上げ、再び自分の瞳を見させた。
「意地張るなら、もっと上手にやらんと……すぐバレますよ?」
「……あほ、バレるとかそんなん……」
そう言いかけた唇に、家康の指先が触れる。信長は一瞬言葉を失い、戸惑った瞳を家康に向けた。
「静かにしてください。今夜はあなたが構ってほしいって言うたんでしょう?」
「そ、それは言うたけど……こんなに……」
甘やかな囁きに煽られ、身体がさらに熱くなっていく。信長はもはや逃げ場を失い、家康の掌の上で完全に踊らされていた。
家康はそんな彼を優しく抱き寄せ、耳元で囁く。
「あなたが私を困らせるからですよ……」
「……俺が、いつ困らせたっちゅうねん」
「ずっと前から、ずっとですよ。織田信長という人は、ほんま厄介な人ですから」
そう言うと家康は甘い微笑みを浮かべ、信長の額に優しく口づけた。
その柔らかな感触に、信長の全身が甘く痺れていく。普段は感じたことのないほど、自分が敏感になっていることを自覚して、恥ずかしさで頭がくらくらした。
「ほんま、お前とおると調子狂うわ……」
呟いた言葉はか細く、もはや抵抗する気力すら感じさせない。家康は穏やかな表情で頷くと、信長をさらに自分の胸元へ引き寄せた。
「ええ、だから私があなたの調子を整えてあげます」
信長は頬を赤らめながらも、その温かな腕の中でゆっくりと瞳を閉じる。
もはや自分の心も身体も、完全に家康に奪われていることに気づきながら――それでも今夜だけは、それを心地よいと感じてしまっているのだった。
信長はまだ顔の熱を引かせないまま、ソファに深く座り込んだ。
胸元を無造作に手で押さえながら、家康をじろりと睨む。
「……お前、ほんまに調子乗るのもええ加減にせえや」
「何のことです?」
家康はすました顔で信長の隣に腰を下ろし、静かに微笑んだ。
「とぼけんなや……!」
信長は膝を抱えるように座り直しながら、顔を背ける。
だが、その仕草はどこか拗ねた子どもみたいで、家康の微笑みがさらに深くなる。
「私、別に何もしてませんよ。ただ、あなたの手当てをして、ついでに少し拭いただけです」
「……それが問題なんやっちゅうねん……!」
信長は唇を噛みながら、視線をチラと家康へと向ける。
家康は相変わらず余裕の表情を浮かべたまま、信長の様子をじっと見つめていた。
「そんなに怒るほど嫌やったんですか?」
「……っ」
「それとも……もしかして、嫌やなかった?」
家康が少し意地悪に問いかけると、信長の身体がピクリと反応する。
その沈黙が答えなのだと察した家康は、静かに微笑む。
「……お前、ほんま性格悪いな」
「ええ、あなたの前では特に」
家康は信長の肩に軽く手を置き、そっと指先で撫でるように動かした。
それだけなのに、信長の肌はピクッと反応し、呼吸が微かに乱れる。
「おい……」
「敏感ですね。タオルより、こっちのほうが良かったですか?」
「……調子乗るなや!」
信長は思わず家康の手を振り払うが、その手はしっかりと掴まれる。
強引ではなく、優しく――でも、確実に逃がさないような力加減で。
「ええ、もう少し乗らせてくれませんか?」
家康がさらに囁くと、信長は完全に真っ赤になり、目を逸らした。
「……俺様を、これ以上からかったら許さんぞ」
「からかってるわけちゃいますよ?」
家康はそう言いながら、ふっと息を吐くように微笑んだ。
その顔がやけに優しくて、信長は何も言い返せなくなる。
「……もうええ、俺様は寝る!」
強引に話を終わらせようと立ち上がろうとする信長だったが、家康はその腕を軽く引いた。
「それなら、一緒に寝ますか?」
「は……?」
家康の唐突な言葉に、信長は完全に思考が停止する。
「だって、今のあなた、めちゃくちゃ寂しそうですし」
「っ、誰が……!」
「ほら、強がらんと」
「……お前はほんまに……!」
信長は再び座り直し、家康から顔を背けた。
だが、心のどこかで、家康の言葉に揺らいでいる自分がいることを認めざるを得なかった。
「……もう好きにせぇや」
「ええ、じゃあお言葉に甘えて」
家康は優しく微笑みながら、信長の肩をぽんと叩く。
その温もりが、なぜか信長の心にまで染み込むようだった。
ーー深夜ーー
深夜の静寂の中、信長はベッドの端に座ったまま、ぼんやりと家康の寝顔を見下ろしていた。
(……何やねん、こいつ。いつもは余裕ぶっこいて意地悪ばっか言うくせに……)
家康はすっかり寝入っていた。普段の冷静沈着な姿とは違い、どこか穏やかで無防備な表情をしている。その様子が妙に気になってしまい、信長はじっと彼を見つめてしまっていた。
(こいつ……こんな顔で寝るんやな……)
いつも自分を翻弄する男が、今はただ静かに寝息を立てている。それだけのはずなのに、信長の胸の奥が妙にざわつく。
ふと、家康の寝間着の襟元が乱れ、彼の胸元が少しだけ露わになっていることに気づいた。
「……っ!」
思わず信長の視線がそこに吸い寄せられる。
鍛え抜かれた筋肉。無駄のないしなやかな体つき。それだけなら「まあ、できる男やしな」で済むはずだった。
けれど――そこに刻まれていた無数の傷跡に、信長は思わず息を呑んだ。
(なんや、これ……)
淡い月明かりが、家康の肌に走る傷を照らし出す。大きな傷、小さな傷――まるで戦場を生き抜いてきたかのような跡の数々。
「……こいつ、ほんまにただの課長ちゃうんやな……」
信長はゴクリと喉を鳴らす。
これまで「武田商事の課長」として接していたが、その実態は北条財閥の後継者であり、時には裏の仕事すらこなしてきたのだろう。
そう思った瞬間、普段の飄々とした態度の裏にある“何か”が垣間見えた気がして、信長の心臓が妙に騒ぎ出した。
(ちょ、ちょっと待て……俺、何をマジマジと見とんねん!?)
慌てて視線を逸らそうとするが、一度気になってしまったものはなかなか頭から離れない。
(いやいや、これはあくまで観察や! そんなん気にする必要ない!)
そう思い込もうとするものの、気づけばまたチラチラと家康の身体を見てしまう。
(っ……いや、なんやこの気持ち悪い動揺は! 俺様がこんなことでドキドキするわけないやろ!!)
自分で自分にツッコミを入れるが、心臓の鼓動は先ほどからずっと落ち着かないままだった。
その時――
家康がふと寝返りを打ち、少しだけ腕を伸ばした。
「っ!!?」
無意識の動作のはずなのに、まるでこちらを誘うかのような仕草に、信長は思わず仰け反った。
(ズルいやろ……! そんな、何も考えとらん顔で無防備な動きすんなや……!!)
寝ているだけのはずなのに、信長の鼓動は一気に速まる。
(いやいやいや! こんなん意識してる俺がアホやんけ!! 落ち着け、俺!!)
信長は必死に気持ちを整えようとするが、一度高まった動揺は簡単には収まらない。
どうにか家康の顔を見ずに済むように背を向けようとしたその瞬間――
「……ん、信長さん?」
「!!!」
不意に家康が寝ぼけたような声を漏らし、信長の肩がビクリと跳ねる。
(お、おいおい、まさか起きるんちゃうやろな……!?)
ドキドキしながら横目で様子を窺うと、家康は寝ぼけたまま微かに目を開け、ぼんやりとした表情でこちらを見ていた。
「……なんや、お前……」
「……あなた、私のことずっと見てました?」
家康は微笑むわけでもなく、ただ穏やかな口調でそう言った。
(っ!?)
図星を突かれ、信長の頭が一気に真っ白になる。
「は、はぁ!? 何言うとんねん!! 俺様がそんなことするわけないやろ!!」
「……ふふ、本当に?」
家康の口元が、僅かに意地悪そうに緩む。
(あっ……やばい、これ完全にバレとる……!)
信長は言い訳しようと口を開くが、家康がふと腕を動かし、そのまま信長の腰に軽く触れるように抱き寄せた。
「っ!?」
「そんなにじっと見てたなら……気が済むまで、もっと近くで見てもいいですよ?」
耳元で甘く囁かれ、信長の思考は完全に停止した。
(あかん、こいつ……ほんまに、ずるいわ……!!)
家康の涼しげな瞳が、意地悪く細められる。
信長の赤くなった顔を眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「そんなに気になるなら、ちゃんと見せてあげますよ?」
「……は?」
信長が反応する間もなく、家康はスルリと寝間着の前をはだけた。
月明かりに照らされた鍛え抜かれた身体。
引き締まった腹筋の上には、淡く残る無数の傷跡――その全てが、信長の目の前にさらけ出される。
「っ……!」
信長は思わず息を呑んだ。
わかっていたはずだった。
家康がただの「武田商事の課長」ではないことも、北条財閥の関係者であることも。
でも、こうして目の前で見せられると――何かが違った。
「……こいつ、ほんまに……」
言葉が続かない。
理屈では理解しているのに、頭の中がそれを処理しきれない。
家康はそんな信長の様子を見て、ふっと笑った。
「……どうです? じっくり見てもらえました?」
「……っ、ちょ、待て!! 何をいきなり脱いどんねん!!」
信長は慌てて目を逸らすが、意識すればするほど さっき見たものが脳裏に焼き付いて離れない。
傷跡が残るたくましい腕、無駄のない引き締まった身体――その全てが、信長の理性を掻き乱していく。
(あかん……これはヤバい……!!)
「ふふ、顔が真っ赤ですね。そんなに衝撃的でした?」
「誰のせいや思っとんねん!!!」
思わず信長が叫ぶが、家康は余裕の笑みを崩さない。
「あなたがあんまりにもじっと見つめるから、気になったんですよ。だから、しっかり見せてあげたんですが」
「い、いらんことすんな!! 俺様は別に見たかったわけやなくて……!」
家康がのんびりとした口調で煽るたびに、信長の心臓はますます跳ね上がる。
(見たかった……? いやいや、違うやろ!?)
信長は焦燥感を隠すように目をぎゅっと閉じた。
けれど、見ないようにすればするほど、頭の中にはさっきの映像が鮮明に浮かんでしまう。
「……ねぇ、信長さん?」
「な、なんや……!!」
「見たいだけなら、触らないんですか?」
「は……?」
信長は驚いて家康を見ると、家康はにこりと微笑みながら、わざとゆっくりと胸元を軽く指でなぞった。
「……じっと見られると、くすぐったいんですよね。いっそ、ちゃんと触って確かめたらどうです?」
「っっ!!!???」
信長の頭が 完全にパンク した。
(なっ……!? 触るって、何を……!? いやいや、そういう問題ちゃうやろ!!)
言葉にならない混乱の中で、ふと視線が家康の胸元へと引き寄せられる。
鍛えられた身体、戦いの跡――そして、そこに触れてみたいという 衝動 がふっと生まれてしまう。
(あ、あかん……何を考えとんねん俺は……!!)
必死に理性を働かせようとするが、家康の余裕の態度が信長の焦りをますます煽る。
「……信長さん?」
「……っ」
気づけば、信長の指先が ゆっくりと家康の服の襟元に伸びていた。
家康は黙ってそれを見守っている。
煽っているわけでもなく、止めるわけでもなく、ただ静かに――信長の動きを受け入れていた。
(俺……何してんねん……!?)
けれど、その衝動を抑えきれなかった。
信長は家康の胸元にそっと指を滑らせ、その感触を確かめるように、指先を軽く押し当てた。
「……っ」
硬く引き締まった肌と、そこに刻まれた無数の傷跡。
指が触れるたびに、家康の体温がじんわりと伝わってくる。
(……熱い……)
ただの体温のはずなのに、その熱がやけに 直接心に響く 気がした。
「……信長さん」
家康の低く甘い声に、信長はハッと手を引こうとする。
「っ!! ちゃ、ちゃうねん!! 俺様はただ――」
「今度は、あなたの番ですね?」
「……は?」
家康は静かに微笑むと、 信長の服のボタンに指をかけた。
「さっきから、あなたばっかり見てますけど……私も、あなたのこと見せてもらえませんか?」
「っっ!!???」
信長の全身が、完全に硬直する。
(ま、待て!? なんでそうなるんや!!!??)
「ずるいですよね? 私だけ見られてるなんて」
家康の声は穏やかで、甘く、そして――確実に信長を追い詰めていた。
信長の頭の中で 「逃げるべきか」「突っぱねるべきか」「でも、なぜか動けない」 という思考がぐるぐると回り続ける。
(こ、これは……ヤバい……!!)
本能が 危険信号を鳴らす。
けれど、それ以上に―― 家康の瞳から目を逸らせなくなっている自分に気づいてしまった。
この夜、もう 信長に逃げ場はなかった
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