第06話 自己紹介がすごいことになっています!!
「おかえりなさいませ、ご主人様ぁ」
ログインし、クロエの姿を見るや否や、わたしはクロエに飛びつき、抱きしめて髪をなでる。
「はわわっ!ご、ご主人さまぁ。そんな……いきなり……だめですよぉ」
わたしはそのまま無言で、クロエの存在を確かめるように髪をなで続ける、
髪をなでられるのに弱いクロエの顔が、どんどん薄紅色に染まっていく。
「ってご主人様、大変なんです大変なんですよ!!」
クロエの言葉に髪をなでる手を引っ込めて体を離す。
「えっ!?クロエ、何かあったの?」
「これ……これ見てください!!」
クロエに促されて見たものは『Jisboard』の『#はじめまして』チャンネル。
昨日そこにアップした自己紹介が……
「よっ!47200イイネ!っ!?」
通常、5000イイネ!くらいと言われている『#はじめまして』が、その10倍近くのイイネ!を稼ぎだしていた。
わたしの自己紹介への返信を展開すると「キマシタワー」とか「あら^~」とかのコメントが多数を占めつつも「あざとすぎ」や「どうせ中身はおっさん」「キモい」などと言ったコメントも見かけられ、さらに「だがそれがいい」などのコメントを残す人との熱く激しいレスバトルが展開されていた。
「どうしてこうなった」
しばらく状況を呑み込めなかったわたしだったけど、状況はともあれ47200ものイイネ!がついた事実に感激してクロエの方に顔を向ける。
クロエは口元に握った右手を添えながら「えっ?えっ!?」と呟きつつ困惑している。
「クロエーーーーー!!やったよーーーーー!!」
「はわぁーーー!ご、ご主人様ぁーーーーー!!」
わたしはクロエに飛びついて、クロエの頭にぐりぐりと頬ずりしつつ髪をなでていく。
「んーーーー、クロエかわいいかわいい!!これはもうクロエのおかげだよー!!」
「そ……そんな、クロエなんてそんな……あっ!ああん!!ご主人しゃまぁ」
ひとしきりクロエをなでて、クロエの顔がとろん、と惚けてぐったりしたところでベッドに寝かせ、ちょっとした作業に入る。
「お・い・う・ち♪」
まず、クロニクル・ワールド用に取得したツイアカに、さっきクロエに抱き付いたところの画像をアップする。
-クロニクル・ワールドで活動してるイズミと言います。
『Jisboard』の『#はじめまして』チャンネルで思わぬ反響を頂いた時は、わたしとクロエ二人して感激してしまいました。
近況報告とかこちらにしていきますので、よろしくお願いします。
続いて『#はじめまして』チャンネルにお礼レスを投下。
-みなさん、たっくさんのイイネ!とレス頂きましてありがとうございます!!
お礼画像とかもアップしていきたいんですけど、ここではスレチになっちゃいそうなので別のとこにアップしていきます。
これからも、クロエ共々よろしくお願いします。
https://○○○.……
結果、『Jisboard』から誘導されてきた人がツイの方でもイイネ!してくれたおかげで、新規アカウントにあるまじきイイネ!が付いて、合計で76300イイネ!に達した。
その後、起きてきたクロエにジュエルへの交換方法を教えてもらい、無事763ジュエルの入った『ジュエルカード』を手に入れた。
ジュエルで取引する場合、このジュエルカードを露店ゴーレムとかが持っている決済端末を通すことで買い物ができるらしい。
「えーっと、露店で売ってた十二単が20ジュエルだから、今ので衣装38着くらい買えることになるのかな?」
「人気と供給量次第ではあるんですけど。過去のガチャ品で人気なのは高くなりますし、十二単はそこそこ人気の過去ガチャ衣装なんで結構高い方かな?って思いますよ。」
20ジュエルで高い方だと、もしかしたら結構なコレクションができるかもしれない。
「それにしても『かわいいパートナーと一緒に写る』なんて誰でも思いつきそうなものだけど、なんでこんなにバズったんだろ?」
改めて『#はじめまして』チャンネルの、過去の挨拶を見ても大抵が本人のアバターのみでパートナーと写ってるのは1つもなかった。
「えっと、これはあれですね。ご主人様の挨拶への返信を見るとわかると思いますけど。この辺ですね。」
-コイツ正気か!?
本人もパートナーも小さい女の子でどうやって外に出るんだ?
これじゃ東岬の村への運搬すらも危なくて行けないだろ。
-金稼ぎも苦労しそうだな。
採取依頼にしろ素材集めにしろモンスターに襲われたら一発で終了だ。
-ガチャパートナー引ければワンチャン
-だけど、守ってあげたいこの笑顔
-どうせ中身おっさんだろ?
-中身などいない説(霊的なナニカ)
-なにそれこわい
他、色々とレスを読んでいくと、どうやら初期は自分自身かパートナーどちらかは戦えるメイキングにして、モンスターから身を守りつつ運搬や採取の依頼で稼いでいくのがセオリーらしい。
もちろん、モンスターに襲われずに依頼達成も普通にできるけど、どちらかが戦えないと運悪く襲われた時に対抗手段がなくて簡単にアバターロストしてしまうとのこと。
ちなみに自分自身が戦う場合、戦える肉体はメイキングできるけど戦う技術はリアル本人次第、それかクロニクル・ワールド内で技術を磨くしかないので、どちらかと言えばパートナーの方を戦えるようにするのが主流みたい。
攻略Wikiを見るとパートナーのメイキングでは、選択した『パートナータイプ』以外にも年齢、身長、衣装、容姿、筋肉量、性格などで戦闘力が決定されて、総合すると『歴戦の中年ムキムキおっさん冒険者タイプ』が自由に行動できて様々な場面で即戦力になるそうだ。
他にも『暗殺者タイプ』は容姿の違いによる戦闘能力に差があまり無く、任務であればどんなことでも遂行することからも『オススメ初期パートナー』として挙げられていて、『仕込み杖を装備した老執事』や『投げナイフを使うメイド長』とかにしたい場合はこちらとのこと。
なお、言うことを聞いてくれるかどうか、理解してくれるかどうかは別問題になるけど、ガチャ産のパートナーはそれらの『強くなるポイント』を無視して、かわいいパートナーでもやたら強いらしい。
ちなみに『騎士タイプ』は騎士団所属になって勤務中は傍からいなくなる上に、騎士のプライド故に色々と『聞いてくれないお願い』もあったり、道を外したプレイスタイルでいると愛想つかされるもするけど、その代わり定期的にそれなりの給金をもらって来てくれるので、主婦・主夫プレイしたい場合にオススメとのこと。
愛想つかされてしまった場合、パートナーの死と同じように『パートナーロスト』してしまうようだけど、ロスト後はNPCとして存在し続けると言う点がパートナーの死と違うところ。
そのことを利用して、あえて愛想つかされるプレイスタイルをした上で『パートナーロスト』させ、その後に捕えて『くっころ女騎士』にすると言う高度なプレイも可能だそうだ。
と言うか、騎士タイプの項目だけ、他のタイプに比べて妙に詳しく書かれてるのは気のせいだろうか。
「だとすると、戦えるパートナーも必要になっちゃうかなぁ、今回みたいなバズりが続かないと1500ジュエル貯めるの結構大変そうだけど。」
「ご主人様が見た狼娘の『転生ケイブウルフ』は、転生モンスターシリーズ第一期ので実は結構安くなってる方なんですよ。旧シリーズで高いのだと転生モンスターシリーズ第三期の『転生フェニックス』が7500ジュエル、新マップ特化の新パートナーとかだと45000ジュエルとかいくみたいですよ。」
うーん、高い。
サバイバル動画みたいに罠を張ってモンスターの襲撃から身を守りつつ戦う方法もあるみたいだけど、採取や運搬の依頼受注中だとそうもいかないだろうし、非常に悩ましい。
ご依頼掲示板に護衛依頼を貼り出すって手もあるけど、それやると採取や運搬の稼ぎをかなり持っていかれるだろうし。
「ご主人さまぁ、ごめんなさい……クロエが戦えればよかったのに……」
難しい表情で長考しているわたしを見かねたのか、クロエが申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
だけど、クロエをメイキングしたのはわたしだ。
「大丈夫よ、クロエ。わたしはクロエがかわいくてかわいくて、大好きなんだから……ね?」
「ご主人しゃまぁ……ありがとうございますぅ」
クロエのようなメイドタイプは家事全般をはじめスケジュール管理や情報の提供など、生活をサポートする能力に優れていて、また他のどのタイプより従順で素直だと言う。
だけど、そんな攻略Wikiに書いてあるようなパートナータイプとかはもうどうでもよくて、わたしはもうとにかくクロエがかわいくて愛しくて大好きになっていた。
ゆっくりでも安全に、クロエと一緒に頑張っていこう。
そう心に決めて、クロエの髪に手を添えながら優しく抱きしめた。
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