第05話 フードチケットで朝食を注文します!!

 運ばれて来るであろう朝食の為にログアウトし、しばし個室にて待つ。

 昨日、ログインするまでは気にもならなかったフロアの薄暗さ、個室の暗さ、狭さが気にかかる。

 一旦布団を畳み、掛布団と枕を畳んだ敷布団の上に乗せ、個室の仕切りに内臓されているテーブルを展開する。

 

 コンコン

 

 個室の引き戸がノックされる。

 和明が引き戸を開けると、朝食をトレイに乗せた女性スタッフが佇んでいる。

 

 「お待たせしました。牛鮭朝定食をお持ちしました。」

 「ありがとう」

 

 お礼を言いトレイを受け取ると、スタッフは一礼と共に引き戸を閉める。

 朝食の乗ったトレイをテーブルに乗せるも、個室の暗さも相まってなかなかに心が躍らない。

 テーブルの上部にあるLED電灯を点けて個室に明るさをもたらすが、どことなく冷えた感じが拭えない。

 

 VRと言う人工的な世界とは言え、その世界の中での自然光で明るく、温かく広い部屋。

 人工知能で初期パートナー故にとは言え、和明のアバターであるイズミに好意的なクロエ。

 

 それらのない、現実の狭く暗い個室。

 目の前には現役時代、幾度となく食べた牛鮭朝定食。

 かつてよく利用していた牛丼チェーンと『さくら館』が提携しているらしく、寸分違わぬ内容の定食である。

 和明はそれらを一心不乱に口に運んでいく。


 -さっさと食べて、さっさと

 

 味は安定して割と美味い。

 腹も十分膨れるボリュームもあり、独り身の食事としては申し分ない。

 しかし……

 

 -もっと『それらしい』食事を、クロエと一緒に楽しみたい。

 

 狭く暗い個室で目の前の牛鮭朝定食を食しながら、明るく温かい部屋でクロエと食事を楽しむ風景が頭一杯に広がる。

 

 一杯の冷えた麦茶を飲み切らないようペース配分を気にしながら、鮭にかぶりつき、卵をかけ牛肉を乗せた白米をかきこみ、味噌汁をすする。

 トレイ上の食材を全て平らげた後、わずかに残った麦茶で口を洗い流し、一息入れる。

 

 -ふぅ

 

 いつもなら、ここで食後の余韻にひたる和明であるが、一刻でも早く帰りたい和明はすぐに次の行動に移す。

 

 個室の引き戸を開けてスリッパを履き、少し右手を伸ばしてトレイを持ち上げる。

 天井からぶら下げられている『ドリンクバー』『返却口』と書かれた案内板を頼りにフロアを進み、返却口の棚にトレイを置く。

 トレイから麦茶の入っていたコップを拝借して、ドリンクバーでウーロン茶を並々注ぎ、一気に飲み干すと、トレイにコップを戻して個室へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る