第16話 きっかけは一つの悲劇から
あれからAIアートについて調べた。
著作権がらみで色々問題が起こってるとか、コスト削減がどうとか。
色々話材は尽きなかったけれど、わたくしの心を引き付けたのはたった一つの情報だった。
『AIは数多の絵を学習して進化していく』
その解説を見たとき、わたくしはふと思ってしまったのだ。
『圧倒的な技術の高さと、トレンドを追った題材を一つの絵に込める』
そんなわたくしの絵の描き方はAIに似ているんじゃないかって。
もちろんこんなものは極論ですわ。
人間の学習とAIの学習は根本が違うのですから。
でも、もしAIの研究が進んだら……そうも言ってはいられなくなるかもしれない。
技術の発展で、わたくしの得意とする絵の描き方はAIの専売特許になるかもしれない。
そう考えたとたん、恐怖が止まらなくなった。
それが原因なのか、わたくしは長い長いスランプに陥ったのですわ。
◇
季節が流れ、わたくしは高校2年生になった。
美術部には無事後輩が入って、それなりには慕われていましたわね。
「あ、あの……涼音先輩。相談があって」
「いいですわよ。聞かせて」
部の皆はわたくしの絵を綺麗だとか、技術が高いだとか、色々褒めてくれた。
でも、それはあくまで高校に入って初めて絵を描き始めた素人の意見だ。
「先輩、それって今年のコンクールの絵ですよね」
「えぇ……そうですわね」
「青いバラ……花言葉は夢は叶うですよね……素敵です」
わたくしは分かっている。
明らかに去年より下手になっている。
これでは去年の自分を超えるどころではない。
AIに負けるどころか普通の人間に負けてしまう。
賞なんかとれっこない。
「……」
「せ、先輩。根を詰めすぎるのも良くないですよ。コーヒーでも飲みませんか?」
そんな悩みが顔に出ていたのか、後輩に気を使わせてしまった。
学校の自動販売機で打っているペットボトルのコーヒーをそっと渡してくれたのだ。
「ありがとう……確かに、考えすぎは良くありませんからね」
そう言って、彼女からペットボトルを貰った直後の事だった。
震度3程度の地震が起こったのは。
「キャッ」
幸い、学校でのけが人はゼロだった。
わたくしと後輩も、倒れこそしたもののけがは無かった。
「大丈夫ですの?!けがは?」
「あ……」
あの時の後輩の声が震えていたのをよく覚えている。
彼女はゆっくりを指を刺しながらー
「せ、先輩……絵が」
「絵?」
わたくしの描いていた絵を見つめていた。
絵の中心には、地震の揺れでペットボトルからあふれ出したコーヒーがべっとりとにじんでいた。
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