第16話 きっかけは一つの悲劇から

 あれからAIアートについて調べた。

 著作権がらみで色々問題が起こってるとか、コスト削減がどうとか。

 

 色々話材は尽きなかったけれど、わたくしの心を引き付けたのはたった一つの情報だった。


 『AIは数多の絵を学習して進化していく』


 その解説を見たとき、わたくしはふと思ってしまったのだ。

 

 『圧倒的な技術の高さと、トレンドを追った題材を一つの絵に込める』

 

 そんなわたくしの絵の描き方はAIに似ているんじゃないかって。

 

 もちろんこんなものは極論ですわ。

 人間の学習とAIの学習は根本が違うのですから。


 でも、もしAIの研究が進んだら……そうも言ってはいられなくなるかもしれない。

 技術の発展で、わたくしの得意とする絵の描き方はAIの専売特許になるかもしれない。


 そう考えたとたん、恐怖が止まらなくなった。

 それが原因なのか、わたくしは長い長いスランプに陥ったのですわ。




 季節が流れ、わたくしは高校2年生になった。

 美術部には無事後輩が入って、それなりには慕われていましたわね。


 「あ、あの……涼音先輩。相談があって」

 「いいですわよ。聞かせて」


 部の皆はわたくしの絵を綺麗だとか、技術が高いだとか、色々褒めてくれた。

 でも、それはあくまで高校に入って初めて絵を描き始めた素人の意見だ。


 「先輩、それって今年のコンクールの絵ですよね」

 「えぇ……そうですわね」

 「青いバラ……花言葉は夢は叶うですよね……素敵です」

 

 わたくしは分かっている。

 明らかに去年より下手になっている。


 これでは去年の自分を超えるどころではない。

 AIに負けるどころか普通の人間に負けてしまう。


 賞なんかとれっこない。 

 

 「……」

 「せ、先輩。根を詰めすぎるのも良くないですよ。コーヒーでも飲みませんか?」


 そんな悩みが顔に出ていたのか、後輩に気を使わせてしまった。

 学校の自動販売機で打っているペットボトルのコーヒーをそっと渡してくれたのだ。


 「ありがとう……確かに、考えすぎは良くありませんからね」


 そう言って、彼女からペットボトルを貰った直後の事だった。

 震度3程度の地震が起こったのは。


 「キャッ」

 

 幸い、学校でのけが人はゼロだった。

 わたくしと後輩も、倒れこそしたもののけがは無かった。


 「大丈夫ですの?!けがは?」

 「あ……」

 

 あの時の後輩の声が震えていたのをよく覚えている。

 彼女はゆっくりを指を刺しながらー


 「せ、先輩……絵が」

 「絵?」


 わたくしの描いていた絵を見つめていた。

 絵の中心には、地震の揺れでペットボトルからあふれ出したコーヒーがべっとりとにじんでいた。

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