第10話 絵画『母なる森々』

 あの後は繰り返しの様に涼音すずねと色んな絵を見た。

 色々解説を聞いたりだとか、モチーフを聞いたりだとかしたけど最初に聞いた話程のインパクトは無かったな。


 ま、それなりに楽しかったし良いか。

 週一でこういう事をするだけで金が貰えるんだし本当にいい生活だよ。


 「どうやら次で最後みたいですわね」


 涼音すずねの声を聞いて視線を向けると、そこには大きな曲がり道があった。

 ははーん。

 さては大トリの絵を最後に飾るつもりだな。


 ここ曲がったところでドーンと絵を置く寸法だ。

 そうして二人で道なりへ進む。


 「おぉ!!すげぇなデカい!!」


 そこにあった絵を見て、俺は素直に感心した。

 まず第一に度に書くデカい絵だった。

 見るだけで度肝を抜かれるほどの大きさだった。


 大きなキャンパスに、緑系の明るい色をぶちまけて作られている絵画。

 さっき 涼音すずねに教えてもらった実は一定のリズムを刻みながら絵具を散らす絵。


 でもこれは、何と言うかパッと見ただけで何をモチーフにしているかは明確に理解できる7ものだった。

 それはそう、森とか山とか、そういう自然。


 自然を感じる色合いの絵具をあえてばら撒かせている事で、人間には到底理解できない自然を表現している。

 絵に疎い俺でもそれを簡単に感じられる一枚だった。


 「タイトルは『母なる森々』ねぇ。確かにトリを飾るには十分な一枚だな」

 「えぇ……そう、ですわね」


 少しはしゃぎながら伝えると、涼音すずねは唖然とした表情でじっと絵を見ていた。

 

 その顔は普通に『母なる森々』に感銘を受けているようにも見える。

 でも、なんか違和感を感じるようなー


 『ふ~ん。面白い配信じゃねーの?いろんな人が見るのも納得って感じでさ』

 『未確みかくにぃさ、本当にそう思ってる?』

 『本気で思ってるって。どうして疑う』

 『なんか変な顔してる。未確みかくにぃの性格ならこの動画を見て投稿者に嫉妬しててもおかしく無いし』


 また要らない事を思い出した。

 今俺は涼音すずねのヒモしてるのに、昔の女の事がよぎるのは余りにも良くない。

 

 でも、この会話を思い出したからこそ分かることが一つある。

 涼音すずねの目が今、作品名の下にある作者の名前を凝視している事に。


 「もしかしてなんだけどよ、この絵の作者って涼音すずねの知り合いか?」

 「どうしてそう思ったんですの?」


 「いや、だって作者名めっちゃ見てるし。もしかしたら嫉妬とかしてるのかなって」

 「流石ですわね。色々と見抜かれてしまっている様ですわ」


 涼音すずねは少し困ったような顔を浮かべた。

 それは今までの『ヤベー女』としての 涼音すずねとは全然雰囲気の違うもので、少し新鮮な感じがした。


 「えぇ、わたくしこの絵を見て嫉妬していたんですわ。何せ、この絵を描いた人はー」

 

 涼音すずねがそう言いかけたその瞬間。

 

 「あれ?涼音すずねちゃんじゃん」


 背後からそんな声を掛けられる。

 さっと振り向くと、そこには涼音すずねとは真反対のスレンダータイプの美女が立っていた。


 「沼池ぬまいけ……璃々りり

 「何々?私の絵、見に来てくれたの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る