第11話 天才絵師 沼池璃々

 「にしてもこんな所で会うなんて奇遇だね」

 「そうですわね。貴方は現代アートなどは興味無かったはずですのに」

 「ちょっと考えがさ~、変わったんだよ。涼音すずねちゃんに影響受けたっていうかさ」


 唐突に現れた第二の美少女。

 名前は確か……沼池ぬまいけ璃々りりとか呼ばれたな。


 「ちょっと影響を受けただけでこんな大作が書けるなんて、天才というのは心底羨ましいですわね」

 「はいはい、久しぶりの涼音すずねちゃんの毒舌でしたと」


 な~んか涼音すずねの奴めっちゃバチバチしてるなぁ。

 俺に対しては好意100%って感じなのに、沼池ぬまいけに対しては凄い敵意を感じる。


 女のコミュニティーってこういう所が怖いよなぁ。

 俺普通に苦手なんだわ。


 「いや~涼音すずねちゃん、ちゃんと美大には入ってるけど昔みたいに意欲的に活動してなかったじゃん。てかふさぎ込んでたじゃん?もう絵を辞めるのかなぁって心配してた所なんだよ」


 「心配?貴方がわたくしの事を?」


 「だって小さい頃からコンテストとかコンペで顔を合わせる仲だったじゃない?いわばこの私とってのライバルと言えるわけで、心配だってするものだよ」


 「わたくしは一度もコンペであなたに勝った事は無いと言いますのに。勝手にライバルだと仕立て上げて親しくするのは傲慢ではありません事?」


 「でも、天才である私に噛みついてくれたのは涼音すずねちゃんだけだしさ~。やっぱりライバルだよ」


 でもあれだな、沼池ぬまいけの方は割と涼音すずねに好感ある感じだこれ。

 微妙に話しかみ合って無いのもそのせいか。


 なんて考えていると、ふと沼池ぬまいけの方から熱い視線を送られる。


 「んで、君は確かユーフォーって名前で配信してた人だよね。めっちゃ炎上してた人」

 「あぁそうだよ。サインとか居る?」

 「まさか、炎上配信者のサイン欲しがる人なんかいないでしょ」


 それは……どうだろうなぁ。

 涼音すずねは欲しいって言ってもおかしくない気がする。


 「でも何でここに居るわけ?」

 「わたくしが未確みかくさんを誘ったんですのよ。せっかくのデートでしたのに」

 「あれぇ、もしかして私邪魔な感じ?」


 まぁ涼音すずねの顔が答えを物語ってるよなぁ。

 これはあれだ、家に帰ったらなんかでご機嫌取りしてあげた方がよさそうだな。


 「にしても璃々りり、貴方の信じる芸術は一目見て楽しめる作品を作る事でしたわよね。だから過程や意味を重要視する現代アートは肌に合わないって」


 「あぁ。そんな事も言ってたねぇ」


 「それが今になってどうして現代アートを?どういう心の移り変わりなんですの?」


 涼音すずねの質問に対し、沼池ぬまいけは少しうんうんと頭を抱えてフリーズした。

 どういえばいいかなぁ、どこから話せばいいかなぁ、なんて独り言をぶつぶつつぶやいた後、『見てもらった方が早いか』なんて言い始めてスマホを取り出した。


 そこに映っていたのは一枚の絵。

 最近流行っているソシャゲの人気キャラ『阿寒アカンシヌ』のイラストだった。


 「普通に上手なイラストじゃねーの。これアンタが書いたのか?」

 「確かに画風は璃々りりの物ですわね……でもこの絵、ミスが多すぎません事?」


 「ミス?本当にそんなのあるのか」

 「指の本数とかも6本になってますし、一部髪が服と同化してますし……構図も少しー」


 涼音すずねがイラストを吟味しながらミスを報告する。

 その度に声を震えさせ、顔を青ざめさせながら。


 「あなた……もしかしてこれ」

 「流石は涼音すずねちゃん。理解が早くて助かるよ」


 沼池ぬまいけはスゥっと一呼吸。


 「私の画風さ、AIに喰われたんだよね」


 酷く落ち着いた声色で彼女はそう宣告するのだった。

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