ガルバ系女子は沈黙する
遮光カーテンの隙間から西日が差し込む体育館。ステージ上で催しをする各部活を膝を丸めて眺めていた。
「どう? オモロイのあった?」
隣で同じく膝を丸める小鳥遊さんが、首だけ横向けて聞いてきた。
小鳥遊さんはスカートが短く、撫で回したい美脚どころか乙女のパンツも見えてしまいそうなので、視線を奪われないようステージに目を向けて答える。
「全部面白いよ。滑ってる部も、真面目な部も、気風が現れてて見てて楽しい」
「ふーん。偉いね、小湊は。高みの見物って感じがする」
「あはは。そうじゃないけど、そうなのかも。実際見せ物を見てる感覚はあるし、新入生にだけ許された特権だね」
「へえ。ちゃんと良い奴だね、小湊って」
「どの辺が? 来年は逆の立場になってヒヤヒヤするから、今のうちに楽しんでやるぞ! って感じだけど?」
「嫌なやつ風、良いやつだ」
小鳥遊さんはカラカラと笑った。
人形みたいな綺麗な顔なのに、笑顔はしっかりギャルっぽい愛嬌があって眩しい。
前世の男はころっと落ちてしまいそうだし、前世の男の俺もころっと落ちてしまいそうだ。
「どう? そろそろ終わるけど、五つに絞れた?」
小鳥遊さんに尋ねられて頷く。
「大体は。付き合ってくれてありがとうね」
朝、面倒臭そうにした小鳥遊さんから条件を出された。
『うーん、うち部活に入る気ないし、冷やかしになんない?』
『うるせえ暇人。夕子、お前は私と行くんだよ』
『別に良いけどさあ、出来れば5つくらいに絞ってくれたら助かる』
なんて会話があってから時間が経過して午後。
部活紹介で一年生が体育館に集まった今、小鳥遊さんと一緒に見ているのだった。
「いや、別に良いよ。うちも部活入る気ないからダルいってだけで、小湊と見学に行くのは楽しみだからね」
「下心出すな、小ギャル」
「出してるのはどっち、舞亜? うちらの前に座って、前アングルから小湊の体育座りを眺めてるのはどういう意図?」
「ち、違うからね、なーくん! 夕子! ドン引きされるようなこと言わないで!」
「ほら、二人とも静かに」
まだ部活紹介の最中なので、二人は清水さんに怒られた。
前には舞亜ちゃん、清水さん、怜。俺が最初に座って、すぐに怜が俺の前に座ったためこういう配置になったのだった。
「——それでは一年生の皆さん、是非部活動でお待ちしています。生徒会もお忘れず!」
と生徒会長っぽい人が締めて、体育館からぞろぞろと移動。シューズを脱いで運動靴に履き替え、外に出る。
「うわー」
小鳥遊さんが気怠そうに言うのも無理はなかった。
体育館の外は部活勧誘の先輩方に待ち伏せされており、ビラ配りの花道が出来ている。
階段を降りた瞬間一年生は、揉みくちゃにされてしまっていた。
「小湊、私の側にいて」
「小鳥遊さん格好いい。王子様みたい」
「お姫様の間違いでしょ。それにそんなんじゃなくて、まあ行ったらわかる」
疑問符を浮かべながらも、一緒に歩いていくと、俺たちには構わず他の一年生に群がっていた。なんか電車で自分の隣だけ人が座っていない気分だ。
すんなり人ごみから出ると、小鳥遊さんは俺に顔を向けてきた。
「あんがと。人よけ助かった」
「ええ……俺ってもしかして、嫌われてたりする?」
「逆。男子に声かけて嫌われるのが怖いんだよ、皆。小湊、そういうところ疎いよね。涼香にも説明されてたし」
「あはは。正直、疎い。でも、朝の話なら勧誘が激しいはずなんじゃ?」
「こんな他の部活も一杯いるところで、快く勧誘されてる男子を見せたくないでしょ。ライバル増やしてどうする?」
「そんなもんかなあ」
「うん、現にほら」
小鳥遊さんが指差した方を見ると、こっちを食い入るように見つめている先輩がいた。
「いつ飛び掛かってやろうか、うずうずしてる。目がやばいよ」
たしかにこっちを見てはいるけど、目がやばいかは遠くてわからない。
確かめようと見ると、違うものが見えた。
「ちょっと小鳥遊さん行ってくるね」
「あ、小湊」
俺は現場に戻って揉みくちゃにされてる人の手を掴んで引っ張りだし、無事舞亜ちゃんを釣り上げることに成功。
引き寄せたことで前にツンのめった舞亜ちゃんを胸で受け止め、背中に手を添えて支えた。
「すいません。彼女かりますね」
「は、はひぃ」
先輩に一言声をかけて、舞亜ちゃんの手を引いて小鳥遊さんのところまで行き、手を離す。
「朝のリベンジ達成したよ。舞亜ちゃん、背丈低いから助けられて良かった」
実際、抱き寄せたとき、小柄で軽くて華奢で女子って感じがした。密着した時に、着痩せする柔らかく大きな胸の感触があったし……いや、それは申し訳ないから忘れてしまおう。
折角純粋に助けただけなのに、俺が覚えていれば不純なものになってしまうし。
俺は舞亜ちゃんの感触を記憶から消したことにし、小柄な彼女を助けられて良かった、めでたしめでたし、と心の中で締めておく。
「……」
「舞亜ちゃん?」
一向に喋らない舞亜ちゃんを見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
あーそうだよな。
助けるためとはいえ抱き寄せられたら、怖いか、キモいか、ムカつくか。
加えて男女の価値観が違う今世において、今は女子に手を繋がれ抱きついたのを周りに見られたような状況で、強い羞恥心に襲われて不快だろう。
「本当にごめんなさい」
「小湊は何に謝ってるの?」
「いや、舞亜ちゃん、嫌だったろうなって」
「……はあ。行くよ、小湊。舞亜も足動かす」
せっせと歩き出す小鳥遊さんの背中を、俺と舞亜ちゃんは慌てて追ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます