バスケ部のクール系女子は男マネを夢見る


 教室に着いた俺は席に座らされ、突然集められた怜、清水さん、小鳥遊さん、そして集めた本人の舞亜ちゃんに見下ろされていた。


「なーくん、今回ばかりはお灸を据えさせていただきます」


「舞亜。何、なーくん、って?」


「発音が違う。グルクンと同じ発音だから。そんな、なーくん♡ みたいな発音はしてない」


「美甘。グルクンって何?」


「タカサゴのこと」


「舞亜、私、タカサゴがわからないんだけど」


「魚。スズキ目タカサゴ科に属する魚で、沖縄で有名な魚」


「へえ〜。何にしたら、美味しいの?」


「グルクンのことはいいよもう!! 何でそんなに興味津々なのかな!? もっと大事なことがあるんだからもう突っ込まないで!!」


 怖くない先生に怒られたみたいに、はーい、と皆が返事すると、舞亜ちゃんはこほんと咳をした。


「朝、部活の勧誘が凄かったのは知ってる?」


 舞亜ちゃんの言葉にみんな頷いて、楽しそうに笑った。


「あはは。大変だったよ、サッカー部に入るって言ってるのに粘ってきたよ」


「私はバスケ部に勧誘されて、入るつもりと答えたのに何回も念を押された」


「見た目が怖いうちすら誘われたしね。土を持って富士山を越す山作ろう同好会と、レッドオーシャン緑化委員会には惹かれちゃったし」


「あんたらの事情はどうでもいい。大切なのは、そんな場所で『部活どこにしようか迷ってるんですぅ〜』って言ったらどうなるかってこと」


 皆は、そりゃ勧誘くるだろなー、と苦笑いを浮かべる。


「でしょ? ピラニアかカンディルのいる川に飛び込むようなものでしょ」


「ピラニア? カンディル? 何それ?」


「だから魚に興味を持つなっちゅーに!!」


「じゃあ何に興味を持てば良いの? 流石の凪でも、男子がそんなことは言わないだろうし」


「言ったんだよ……」


「「「は?」」」


 三人の声が重なった。

 確かに言ったけど、そんな反応になるか?


「な、凪……本当?」


「いや言ったけど、別に変なことではないでしょ。実際、勧誘してくれたら嬉しいし。皆も勧誘凄かった〜って言いながらも、悪くない感じだしてたじゃん」


 清水さんが乾いた笑い声を出した。


「私たちは女子だから、凄かったって言ってもたかが知れてるし。でも男子なら話は別だよ。男子と同じ部活動に励むってのは、女子高生が憧れるシチュエーションだから、きっと激しい勧誘にあうよ」


 なるほど。舞亜ちゃんの反応のわけがわかった。

 俺が激しい勧誘にあうのを心配してくれているのだろう。


 清水さんの言葉を前世に置き換えて考えてみると、たしかに女子と一緒の部活は男子の憧れではあった。

 男子が少ない今世では、数少ない男子と長く関われる場とも言えるし、わりと勧誘したいのかもしれない。


 ただ勧誘に血眼になるほど憧れるだろうか。

 たしかに憧れのシチュエーションではあるけど、男子だけの部活も良かった。

 前世では女子と一緒だと足並みが揃わないので、同じ競技でも男女分かれている部活がほとんどだったし、デメリットもメリットもある。


 だから必ずしも皆が勧誘したいわけではないだろうし、入っても迷惑にならない部活を見極めるためにも勧誘は嬉しいという結論に至る。


「勧誘が激しいって聞いても、全然俺は嬉しいけどなあ。まあ、入ってきた男子が俺でした、ってのは、憧れてる人に申し訳ないけれど」


 怜と舞亜ちゃんが非難の目を向けてきた。

 良くわからないけど、申し訳なく思う。


「うーん。小湊くんが良いなら良いけど……部活には入るつもりなんだ?」


「うん。折角の高校生活だしね」


「まあその気持ちはわかるけど、男子にしては珍しいね」


「部活に入る男子って珍しいかな?」


「そうだね。内申点狙いの子が男マネやったり、元々やってた習い事とかの部活に属する男子も普通にいるけど、元の数が少ないから珍しいよ」


 あっそうなんだ。割と普通にいるみたいで、気にせず部活に参加できそう。


「まあでも、女子と同じ部活に抵抗感があるから、男子だけの部活に入る子が多いけどね。だから回帰しちゃうけど、現実にあり得る憧れだから、女子の部活に入ってくれそうなこと言った小湊くんの勧誘は激しいよ」


「あはは。だから別に良いって。嬉しいし」


「良くなぁい!! なーくん、部活には入るつもりなんでしょ?」


「うん」


「部活見学に行くつもりなんでしょ?」


「一応」


「なら良くなぁい!!」


 舞亜ちゃんはぷんすこ怒って続けた。


「盛りのついた女子高生なんて獣だよ! 入部届にサインしないと部屋から出さない! みたいなことになりかねないって!」


「そんな悪徳宗教みたいな」


「いやまあ、私もそこまではないと思うけど、なーくんが心配……だから!」


 と舞亜ちゃんが皆を見回す。


「パーティメンバーを募集します。任務は部活見学に行くなーくんの護衛、想定ランクSSSです」


「それで、うちらは集められたってワケ?」


「然り」


 舞亜ちゃんが頷いた。


 護衛なんて大袈裟な、とは思うけど、新しくできた友達と部活見学というのは青春感がしていい。ものすごくワクワクする。


 しかし清水さんは申し訳なさそうに言った


「うーん、行ってあげたいんだけど、私は今日から部活だしなあ。深山さんもそうでしょ?」


「う、うん……」


 あーそっかあ、一緒に見学行きたかったけど、それは仕方ない。


「な、凪っ!」


「どうしたの怜?」


「その凪が部活に入るつもりなら、その……」


 頬を染め目を伏せた怜は、消え入りそうな声でぼそっと言った。


「多分、バスケ部は募集してると思うから……」


「あはは、ありがとう! 候補に入れるね!」


「う、うん……いてっ!」


 目を輝かせた怜は、舞亜ちゃんにチョップされ目を><に変えた。


「深山が勧誘するなっちゅーに。まあでも二人はダメ。私も軽音部に顔見せに途中でいなくなるから……」


 みんなが小鳥遊さんに目を向けた。


「ええ……うちぃ?」


 小鳥遊さんは自分の面倒臭そうな顔を指差した。

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