バスケ部のクールイケメン女子は溶かされる
教室に入ると、俺に視線が集まった。
俺を見ながら友達とひそひそ会話をしていたり、嬉しそうな顔でガッツポーズを取っていたり、あえて見ないように視線を逸らしていたり、クラスメイトの反応は様々だ。
概ね好意的な眼差しっぽい。女の園に男が入って来んじゃねーよ、とかだったら、泣いて帰宅していただろう。
受け入れてもらえたことに安堵の息をつきながら、俺は自分の席に座る。
はてさて、ここからどうやって友達を作ろう?
クラスメイトはもうすでにコミュニティを形成している。中学からの知り合いだったり、登校までに話していたり、何ならSNSで事前に知り合っていたりと様々だ。
俺はというと、中学卒業のタイミングで引っ越しがあり、高校は新天地を受験した。それはこの世界の俺も同じであり、前世で友達だった奴も軒並みいないので、コミュニティが全くない。
どうしようか、本当に。友達のいない学生生活なんて、苺抜きのショートケーキみたいなものだ。
割とそれはそれで美味しいかも……いやいやダメダメ。高校生活を楽しむと決めた。いちごはクリームが見えなくなるくらい乗せたい。
きょろきょろと辺りを見回すと、一人でいる女の子を見つける。
ぼっち仲間だ。あの子なら話しかけやすい。
そう思って腰を上げるけど、ちょっと臆する。
黒髪ウルフのクール系の女の子。
爽やかで格好良く、まつ毛が長くて漫画から出てきたように綺麗。女子校なんかでは王子様ともてはやされてそう。
短いスカートから伸びる脚は長く黒タイツが映えていて、ローアングラーの気持ちが初めてわかったくらい美脚だ。
うーん、孤高のオーラがあるし、綺麗過ぎて近づきづらい。でも彼女以外にぼっちはいないし、話しかけてみよう。
「何読んでるの?」
前の席に後ろ向きに座り、女の子に話しかける。
「え……?」
「それ、バスケの雑誌だよね? ってことは、バスケ部志望なんだ?」
「えとまあ、私、バスケ一筋だし」
「あはは。入学した日の朝からバスケ雑誌一人で読んでるくらいだもんね、ちゃんと本当の一筋だ!」
「……っ」
恥ずかしそうに頬を染めるクール系女子。
距離感グッと詰めすぎたかも。ちょっと反省する。
「ごめんごめん。こういう冗談言うのはまだ早かったよね? 全然悪意とかないし、むしろ頑張ってて、いいなあ、って感じだから許して」
「べ、別に良いけど」
「そっか、ありがと!」
良かったぁ〜、と笑顔を向けると、女の子はバッと雑誌に視線を落とした。
興味持たれてないなあ……友達になりたいんだけど、もう少し粘って、迷惑だったら退散しよう。
「あのさ、名前ってなんて言うの?」
「……深山怜(みやまれい)」
「じゃあ苗字珍しいし、深山さんって呼ぶよ。俺は小湊凪、よろしくね」
「……うん。よろしく小湊」
こくり、と頷いた深山さん。
どうやら嫌がられてはないみたい。だけど、塩っぽいので友達は欲しくないのかもしれない。
「ねえさ、深山さん。もしかして何だけど、俺ってダルいかな?」
「え?」
「友達になりたくてグイグイ行ったけど、距離感間違えたかなあって。割と一人が好きなタイプだったりする? それなら本当にごめんね?」
深山さんは雑誌から顔を上げて首をぶんぶんと振った。
「い、いやいや、そんなことない……。私そのバスケ馬鹿だから、どう接して良いのか難しくてその……話しかけてくれたのは嬉しい」
「ならスカしてただけか」
「っ……!? ま、まあそうだけど、からかわないで」
「あはは。割とそういう冗談許してくれるんだ。ますます友達になりたくなったよ、仲良くしてくれる?」
「うん……そのありがとう。私、友達欲しいけど、自分から行くのは苦手だったから」
「そうなの? じゃあ俺と同じだ〜。深山さんに話しかけるの、すんごい緊張したんだから」
「え?」
深山さんは目を丸くした。
「本当。綺麗だし、ハードル高かったんだから」
「……う、嘘」
顔を赤くする深山さん。
綺麗と言ったことで照れさせてしまった?
うーん、まあでも俺は普通の男だし、『照れさせるかも』とか気をつけるのは恥ずかしい。
別に思ったことを思ったまま言っただけだし、これからも変わらずにいこう。
「嘘じゃないって。本当だし。だから……」
「だから?」
「次は深山さんが頑張って! あそこのグループに話しかけに行こ。人が良さそうだし、友達になれるかも」
「え、え、でも私、友達作るのなんか得意じゃないし」
「深山さんも友達欲しいんでしょ?」
「それはそうだけど……」
もじもじする深山さんに、俺は痺れを切らす。
腕を組んで引っ張って立ち上がらせた。
「え、ちょ!?」
顔を真っ赤にする深山さんを引っ張りながら言う。
「ほら照れない。友達作りに行くだけなんだから」
そう言って俺たちはクラスメイトに話しかけにいった。
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