高校デビュー女子は心臓が痛い


 電車から降りて通学路を歩く。


「どうして城桜高校に入学したの?」


「え、それは、あの……部活動が活発だから全国目指せるかもって」


「へえ〜。中学は何部だったの?」


「えっと、サッカー部かなあ?」


「いいじゃん。俺もサッカー好きだよ。どこのポジション?」


「えーと、ライトで8番」


「それは野球じゃない?」


「……ご、ごめん! 見栄張って嘘ついた! サッカー全然知らないし、学校を選んだのも偏差値的にちょうど良かっただけで特に意味がなくて!」


「あっはは! どんな見栄なのそれは! 千秋さん、面白いよね!」


 笑うと千秋さんは顔を真っ赤に染めた。


 ただこれでも赤みはマシになった方。

 改札を抜けるまで高熱があるのかと思うほど赤く、俺は警察に被害届を出されるかヒヤヒヤしていた。

 今は長い時間かけて落ち着いたようなので、俺はお縄につく心配がなくなって安心している。


「クラスの発表ってどこでわかるんだろ?」


 校門が見えると、俺は千秋さんに尋ねた。


 今日は初登校。入学式の日。私学ではあるけど普通の高校なので、クラス分け自体はまだ分かっていない。


「えっと……たしか玄関前の掲示板に張り出されてるらしいけど」


「そうなんだ。一緒のクラスだといいね」


「え……う、うんっ! 神様……お願いしますっ。どうか凪くんと同じクラスにしてくださいっ!」


「あはは、たかがクラスで大袈裟過ぎない? 嬉しくはあるけど」


「そ、そういうことをまた……」


 くだらない会話をしながら校門を越えると、学生の声が一気に騒がしくなった気がした。

 見渡す限り女子高生ばかり。男子高校生もいるけど、駅のホームで見かけた数より少ない。

 10人に1人とはいえ、その中から男子校に通ったりする生徒もいるだろうし、男子生徒は10人に1人ではないのだろう。実際、周りの女子から珍しいものを見るような視線を感じるし。


「あ、あれが掲示板かな?」


「多分、そうだよね。怖いけれど、行ってみましょうっ!」


 新品の制服の女子たちがきゃいきゃいしているところを見ると、きっとあそこだろう。


 俺たちは掲示板に近づいて、自分の名前を探す。


「あった。俺は1組だ」


 掲示板に貼られたクラス表を見て、男子の割合を探る。

 俺のクラスは俺一人だけ。他のクラスは二人とか三人。一番多いクラスで五人。

 どうして俺は一人だけなのだろうかと思ったが、明からさまな空白が一つあったので、一人入学辞退があったからだとわかる。


 工業高校や高専、機械科等に行った友達が言ってた男女の割合と近しい気がする。多分男子の扱いはそんな感じなのかもしれない。


 肩身が狭いなあ。その辺に所属していた女子にリスペクトだ。


「終わった……凪さんと違うクラス」


 声が聞こえて隣を見ると、千秋さんが絶望の表情を浮かべていた。


「本当だ、名前がない。残念だね〜」


「はい……」


 どんよりとした千秋さんを見て笑う。


「そんなにショックなの?」


「そ、そりゃそうだよ。初めて男子と仲良くなれたのに、夢見たキラキラの青春だったのに……もう話すこともなくなるんだ」


「あはは。そんなわけないじゃん。じゃあさ、ルイン交換しようよ」


「え……?」


「うん。勝手ながら、千秋さんのことを友達だと思ってるからさ。連絡先欲しいんだけどダメ?」


 千秋さんは固まった。何なら、周囲の女子も固まったので、時が止まったんじゃないかと錯覚した。

 だけど千秋さんが声を出して、そうでないとわかる。


「い、いいんですか?」


「いやそれは俺のセリフだから。交換してくれる?」


「……はいっ!!」


 首を大きく縦に振ってくれた千秋さんに、ありがとう、と礼を言って連絡先を交換する。


 可愛くて面白い女の子と連絡先を交換できた。

 高校生活、青春を楽しむのにいい滑り出しだ。


 それから校舎内へ入って自分の教室前にたどり着く。


「じゃあまたね、千秋さん」


「はい! また……うん。またお願いします!」


 別れを告げ、クラスに入る前にもう一言付け加える。


「あはは。もう友達なんだから敬語やめようよ。またね」


 そう言って視線を教室内へ。

 最後に見た千秋さんの顔はやはり赤く染まっていたような気がした。

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