六章 朝陽一筋だから!
「はああ~」
と、
場所は
それはいい。
問題はここに来る前。
ラウラの店で服や靴を一通りそろえたあと、他の必要品を買うためにいくつかの店をまわった。
と言っても、いまの時代、たいていの用は携帯端末ひとつですんでしまうので家具の類などはほとんどいらない。テレビも、ラジオも、PCも必要ない。必要なものと言えばクローゼットとベッドくらい。
たったそれだけ。
ここで、
「なに言ってるの⁉ ベッドを安物ですませるなんてダメよ!」
「でも、ベッドなんて寝るだけだし……」
「だから、大切なんじゃない。睡眠は一生のうちの三分の一を占める大事な時間。体を休め、脳の雑多な情報を整理し、一日の疲れをとり、新しい一日のためにリフレッシュするかけがえのない時間なのよ。睡眠の質がさがったら健康にも、美容にも悪いし、パフォーマンスだって落ちる。食事と同等以上に気を使うべき人生の大切な要素。だからこそ、寝具にはきちんとお金をかけて、良い物をそろえるべきなんじゃない」
ケチと倹約はちがう。ここぞというところでドカンと大金を使うために普段は使わずにとっておくのが倹約。大切なことにまで出し惜しみしていたらただのしみったれたケチよ!
グッと拳を握りしめ、そう力説する
とまあ、ここまではいい。
正直『そこまで力説するほど?』とは思うけど、言っていることはわかる。とくに、美容と健康に関するくだりには、
――やっぱり、
と、感心した。
しかし、そのあとは……。
「だから、シングルなんて絶対にダメ! ゆったりとしたダブルベッドを買いましょう」
「なんで、そうなるんですか⁉」
「あたしひとり用なのに、ダブルベッドなんて無駄じゃないですか」
これがもし、女子プロレスラー並の巨体というなら自分ひとり用でもダブルベットが必要になるのもわかる。だけど、
身長も平均的なら、体型も――これでも一応、ダイエットに関しては気を使ってきた――平均的。シングルベッドで充分、おさまる体型なのだ。ダブルベットなんて買ったら広すぎて、もてあましてしまうにちがいない。
しかし、
「わたしが一緒に寝るからに決まってるじゃない!」
「なんで、一緒に寝ることが前提なんですか⁉」
すると、
「だって、
そんなことを店内で堂々と叫んでのけたのだ。
当然、まわりの注目が一斉に集まる。視線が痛い。
――救いになるか!
とは、
ともかく、店内でそれ以上すったもんだしているわけにもいかないので、
「お買いあげありがとうございます。お届けは明日の午前中になります」
そう告げる店員の、微笑ましい母娘連れを見るかのような笑顔がひたすら恥ずかしい
ともかく、そうして買い物をすませ、
「ベッドが届くのは明日だから、今夜はわたしのベッドで抱きあって眠るのね」
と、元気いっぱいの
あまりに
――いっそ、家の外で寝てやろうか。
とも思ったけれど、さすがにそこまではできない。ともかく、好意を示してくれる大家相手にあまりに失礼だし、そもそも、土の上で寝たことなんてない。キャンプした経験すらないのだ。そんなことができるとは思えなかったし、したくもなかった。
――まあ、今夜一晩だけだし。明日にはあたし用のベッドが届くわけだし。鍵を閉めておけばいいことだもんね、うん。
そう自分自身に言い聞かせた。
ともかく、時は夕食時である。
怒っていようが、疲れていようが、腹は減る。とくに今日は、
「ははは。いい音だ」
爽快そのものの笑い声とともに、祭りで『ワッショイワッショイ』言っている江戸っ子のように威勢のいい声がした。
威勢はいいけれど、声質自体は若々しい女性のもの。ふと見るといつ来たのか、
中華料理の鉄人として日々、重い中華鍋を振るっているせいか、女性にしてはガッシリした体つき。しかし、太っているという印象はまったくない。見事な筋肉質の均整のとれた体つき。身長も一八〇センチはありそう。それこそ、女子プロレスのリングに立っているのが似合いそうな女性だった。
その女性が
そんな男前美女子に、店内にイケメン風が吹き抜けそうなさわやかな笑顔を向けられて、
たちまち、
「ちょっと、
頬をふくらませてプンスカ怒っている。嫉妬に狂うその姿。文句なしにかわいい姿ではある。
「ああ、そうか。あんたが
そう言って、ニッコリ笑う。
その笑顔だけで恋愛未経験の一六歳女子にとっては金銀財宝にまさる贈り物。
そんな
「ようこそ、眠り姫! 我が『満腹堂』へ! あたしは
見た目通りのサバサバとした気さくな態度。いかにも気っ風の良い姉御といった感じだった。
「あ、は、はい、ありがとうございます。はじめまして。
そんなふたりのやり取りに、嫉妬に狂った棘だらけの声がした。
「ちょっと、
「まったく。学生時代からその調子なんだから。ちょっとばかりイケメンだからって、かわいい子と見るとすぐに手を出してさ」
「お前ほどじゃなかったさ。『目覚めの刻』名物、美少女キラーよりはな」
「美少女キラー?」
思いがけない一言に
「こいつは、昔っからかわいい女の子に目がなくてさあ。相手かまわず食いまくってたんだよな。まったく、悪いやつだよなあ。こんなかわいい眠り姫がいたっていうのに、いっつもちがう女の子、連れていたんだから」
「……へえ。
そう言う
誰も責められないだろう。
「ち、ちがうんだってば、
「それ、相手の女子に失礼です」
きっぱりと――。
正論を言われて
そんなふたりの脇で
「もう、
「まだ注文してもらってないんだよ」
三人そろって漫才がはじまってしまったので忘れていた。
「まいどあり~」
と、
「信じて、
真剣きわまる表情でそう力説する
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