第3話

お父さんって、昔何度も口にしたことがある。

辛い時、悲しい時、寂しいとき。

そう口にしたら、少し安心出来る気がしてた。


だんだん大人になって、父の死を受け入れるようになってからは、その効果は無くなった。


もう会えないんだと。

どこか遠くに、ううん、もうどこにも居ないんだ、と理解してからは。


でも私は、そこに行こうとしている。

父の居る場所に。

そこには父が居るんだという、矛盾した願いだけを救いに。


母は私が居なくなってせいせいするだろう。

私が拒否したのに一緒になったあの男と。

これであなたの思い通り、二人きりでいられるわ。良かったね。

最後の親孝行かもね。

最初で、最後の。



私は下を見下ろす。

歩道には誰もいない。

良かった。この場所を選んだ理由のひとつ。

他に誰も巻き添えにしたくない。

誰にも関心を持ってもらえなかったのに、死んでから思いを向けられるなんて、悲しすぎる。

しかもそれが、恨みや憎しみの思いなんて。



今度は遠くへ目を向けてみる。

悲しいぐらい、綺麗な夕焼け。


温かい光と、綺麗な雲。

きっとあそこに行けるんだろう。

きっとあそこに居るんだろう。


待っててね。すぐ行くから。


お父さん。

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