EP16.9:ヴィンテージLOVE


 「死んでステイくん」


 アイルは小さくそう呟くと、俺に抱きつきながらキスをした。


 久しぶりに触れたアイルの唇。

 柔らかくてしっとりとした感触。


 幼い頃と同じままだった………。


 5年前に、俺が転生してきて始めて味わったキス。

 

 なんにも…変わんなかった……。


 「んッ………ういうアイル…!?」


 俺は驚いた。

 もちろん突然のキスもあるのだが……見てしまったのだ、アイルの右手に握られた…ナイフを。


 「ごめんね……ステイくん」


 アイルの涙が俺の頬に垂れた。

 熱い、とても熱い……まるでアイルの感情でも写した様だ。


 


 (グサっ)


 

 …………刺された。


 あぁ痛い。

 痛い痛い痛い………けど、アイルは俺が浮気してたって知った時、もっと痛かったんだよな。


 俺を殺してしまう程に……。


 今更だけど……本当にごめん。


 「アっ………アイル………」


 横腹から血が流れる。

 抵抗は出来た……が、しようとは……到底、思えなかった。



 (グサっ)



 ……今度は鳩尾の辺りを刺された。


 すると、体から力が徐々に抜けていき……気づけばアイルと一緒に床に倒れていた。

 

 アイル………やっぱ近くで見ると何倍も可愛いな。

 綺麗な金髪、滑らかな褐色肌、バシバシな眉毛……可愛過ぎるだろ。

 

 ………だがそれも徐々に、全て紅く染まってしまった。

 

 割れた水風船の様に飛び出す血。

 床は既に水浸しだった。



 (グサっ)



 「d⬛︎ー!ぁN▲〜、!!⬛︎い●!!」


 声がする。

 何を言っているか分からないが男の声………あぁ、パルフェクトか……いいよ、助けなくて……ってかその体じゃそもそも指先1つ動かせないか…。


 「…………⬛︎ー」

 

 …………そしてその声すらも徐々に聞こえなくなってきた。



 (グサっ)



 あぁ……ヤバい……ちゃんと死ぬなこれ…。

 何度か死の間際を味わったから分かる……。


 まぁアイルに殺されるなら別にいいかー……。

 

 好きな女に殺されて死ぬ……ハッ、ドラマチックで良いな。


 主人公みたいだ……。



 (グサっ)


 

 ハッ、アイル……可愛い顔しわくちゃにしてまで泣いてんじゃねーよ。

 悲しいなら……殺すなよ……。


 「……………ア゛……………ア゛イ……ル…」


 声がもう…まともに出ねぇし……息が出来ない。

 それと寒い……誰かエアコンでもつけたんか?

 いやここ異世界だわ。


 ってハハッ……これがラストジョークか、おもんねー!


 「ゴホッ……かヒュ……」


 もう呼吸も止まるな……。

 最後に一言だけ……アイルに……。


 「ゲフッ……………………ア゛……アい゛ルー……」


 「ん?…なーにステイくん」


 「俺の分ま゛で………………じあ゛わぜに……なれよー……」



 「………うん!じゃあねステイくんっ!」



 グサっ



 瞼が閉じてしまう前、最後に見たのが好きな人アイルの満面の笑顔で良かったと……心からそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る