第34話 次元牢と人間を辞めた男
リーゼは息を切らしてた。
服も所々が破れ、少し血もにじんでいた。
明らかに戦闘の跡だった。
「リーゼ! 無事だったのか!」
俺は思わず叫んだ。里ヶ伊の口ぶりだと、リーゼは今脱出できない場所に閉じ込められていると思っていたからだ。
「こっちのセリフよ。あんたは大丈夫そうね。それで、あんたは.....!」
リーゼの視線は里ヶ伊に向けられていた。強い眼差しで睨みつけている。
「困ったものだ。メドゥーサはしくじったのか」
里ヶ伊はさほど困ってもいない様子で言った。
「あんな程度の不意打ちでやられるほど甘くはないわよ私。さて、どうするの? 勝手にチェックメイトになったみたいだけど」
その通りだった。前は不意打ちで不覚を取ったが、真正面から戦って里ヶ伊はリーゼに勝てはしない。
所詮人間の里ヶ伊ではどんな手を尽くしても無駄だ。あの馬鹿でかい球体を倒すほどの魔族だ。ただの人間には傷一つだって付けられない。
「なるほど、確かに私は今追い詰められているように見えるか」
「見えるんじゃなくて、事実追い詰められてるのよ。私が指一つでも動かせばあんたの首は跳ね飛ぶわ。大人しく拘束されることね」
「なるほど、それは恐ろしい」
里ヶ伊は薄気味の悪い微笑みを絶やさず言った。
なんなんだこいつは。なぜこの期におよんでこんなに余裕でいられる。本当に狂っているのか。
「やろうって言うの?」
「そうだな。ただ捕まるわけにはいかないからね」
里ヶ伊はゆっくり立ち上がった。
店の従業員や客がなんの騒ぎだと慌てている。しかし、全部事象の書き換えでなかったことになるだろう。
そんなことより目の前だ。里ヶ伊は明らかにリーゼに戦闘の意思を示している。
「本気? 悪いけど、あんたのやったことは魔界でも重罪よ。あんたを殺しても誰も文句は言わないわ。拘束するっていうのは、せめてもの私の情けなんだけど」
「それはありがたい。優しいんだな君は」
リーゼの言葉に里ヶ伊はまったく取り合わなかった。
「仕方ない。四肢のいくつか跳ね飛んでも後悔しないでよ」
リーゼの周りに風が吹き始める。魔族殺しの朱い風。里ヶ伊が人間とは言え、あの風の突風は里ヶ伊の自由を奪うには十分だろう。リーゼは完全に戦闘態勢だ。
そんなリーゼに里ヶ伊は問うた。
「ふむ、どうやらメドゥーサは刻印を付けるのには成功したようだな」
「この首のやつ? そうね、次元牢にぶち込むためのマーキングね。でもそれが何?」
リーゼの首にはシャツに隠れるように紫の模様が刻まれていた。
「次元牢を扱う魔法は超高等魔法よ。ただの人間のあんたには扱える魔法じゃない。私だって完全には扱えない。あれは王族に選ばれたものだけが使える魔法。貴族のメドゥーサだから使えるのよ」
「そうだな、どうやらそうらしいな」
そう言って、里ヶ伊は右手を上げた。そして、その白衣の裾をまくる。
「お前......!!!」
その右手の肘から手首にかけてはどす黒く変色していた。太い血管がはい回り、およそ人間の手とは思えなかった。
「残念だなディアベル。私はもう人間を辞めている」
「もうデモゴルゴン化している....!!! クソ....!!!」
リーゼの緋色の風が吹き荒れる。その風が里ヶ伊を襲う。しかし、
「なんで!? 魔族なはず....!」
しかし、里ヶ伊は眉一つ動かさず相変わらず口元だけの笑顔をたたえている。緋色の風が効いていない。魔族ならなすすべなく崩壊するはずの魔族殺しの風が。
「申し訳ないが、デモゴルゴンは魔族ではないんだ。変異して化け物になった人間なんだよ」
そう言って里ヶ伊は右手をかかげる。それと同時だった。里ヶ伊の白衣から何かが伸びる。それは、まるで黒いタコの足だった。それが何本も伸び、手と一緒にリーゼを指す。
「閉じろ」
里ヶ伊が言った瞬間だった。リーゼの周りを青い光の丸い膜が覆う。
「バカな!!! 魔族でもないのに次元牢を使えるなんて....!」
「何から何まで
「クソ.....!!! タカキ!!!!!」
リーゼは叫んで手を伸ばす。しかし、その姿は一瞬で収縮した光の膜とともに消えた。
リーゼは完全に俺の目の前から消えてしまった。
「ふむ、うまくいった」
里ヶ伊は嬉しそうに言った。実に満足そうだった。
「お前.....!」
俺は里ヶ伊を睨みつける。里ヶ伊はそんな俺の視線さえ嬉しそうにしている。穏やかに笑いながら俺に応じる。
「さて、ディアベルは消えてしまったな。奧田タカキ」
「リーゼを返せ」
「返さないとも。この状況でその発言がどれだけ愚かかくらい分かるだろう?」
「お前はなんなんだ!!! なにがしたい!!!!」
「ただ世界を壊し、人々の悲鳴と死が見たいだけだとも」
だめだ、こいつとは意思疎通が図れる気がしない。俺はそのまま殴りかかった。大丈夫だ。リーゼは死んだわけじゃない。俺の体はまだしっかり強化されている。
ここで俺がこいつを倒せばそれで良いはずだ。
「生き急ぐことはないと思うがね」
しかし、俺の拳は里ヶ伊が伸ばした黒いタコの足に防がれた。
「クソ!!!」
「そう焦るな。戦うならしかるべき場所がある。少し待つことだ」
そう言って、里ヶ伊は巨大なタコの足を出し、店の壁を吹き飛ばした。
「ぐ.....!」
土埃が立ち、里ヶ伊はその向こうに行ってしまう。
「待て!!!!」
「待たないとも。出るために壁を壊したのだからね。それでは、また。奧田タカキ」
そう言って里ヶ伊は店の外に出て、そのまま飛び上がった。まるでリーゼや強化された俺と同じだ。そのまま里ヶ伊は夜の街に消えていった。
「クソ!!!!!」
逃がした。やつを、里ヶ伊を。しかし、それ以上に、
「リーゼ.....!」
どこかに消えた相棒のことが気がかりだった。
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