それは、夕暮れの教室だった。
沈みゆく陽の光が、カーテンの隙間から斜めに差し込む。
文学部の部室代わりとなった教室には、少女・久美香の姿がひとつ。
先輩は受験で去り、後輩もいない。顧問すらほとんど顔を出さないその場所で、彼女は今日も静かに放課後を過ごす。
けれどその教室は、決して無音ではなかった。
課題を巡って交わされる冗談、友人との笑い声、教師との軽妙なやり取り。
彼女の周囲には、たしかに誰かがいて、そこにはたしかに日常があった。
だが、それは本当に「そこにあった」のだろうか。
やがて彼女の前に現れる少女、遠江弓子。
親しげに語らうふたりの姿を、通りがかりの女生徒がふと見つめる。
その目に映ったのは──ただ一人、笑いながら教室を出ていく久美香の背中だった。
まるで演劇の幕が下りるように、静かに終わる一日。
だが舞台裏には、誰にも気づかれない空白が広がっている。
この物語は、現実と幻を描き出す静かな青春譚。