この世界の攻略本を拾った俺、この世界のモブな事を知る〜ヒロイン?の自由と幸せの為に最強を目指そうと思う〜

シャルねる

1人目のヒロイン:ナナミ編

第1話

 数日前、両親が死んでしまった。

 家族が居なくなってしまった俺は、まだ現実を受け入れられておらず、気がついたら、母さんと父さんとの思い出の場所である花畑に足を運んでいた。

 多分、一人になりたかったんだと思う。

 村のみんなは俺がまだ12歳という若さで一人になってしまったから、と色々と優しく声をかけてくれるが、村の人達に優しく話しかけられる度に、現実を思い出してしまって嫌だったんだ。


「……なんだ? あれ」


 何も考えず、そこからの景色を見ていると、花畑の中に少し大きめの黒い本? のようなものが落ちていることに気がついた。

 ……本なんて、高級品だ。

 一体誰があんなころに落としたんだろうか。

 ここは俺や母さんと父さんだけの秘密の場所のはず、なんだけどな。


 母さん……父さん……

 

「…………本、拾うか」


 悲しい感情を誤魔化すようにそう呟き、俺はそのまま花を踏まないようにして本の元にゆっくりと歩みを進めた。

 

 そして、本のところまで来た俺は、本を手に取り、これは母さんや父さんが残してくれた何かなんじゃないか? という希望を持ちながら、本を開いた。


【第一に、この世界の主人公はオリム君だ】


 希望が打ち砕かれた。……と同時に、俺は主人公じゃなかったらしいことを知った。……そんなの、こんな本に言われるまでもなく、分かってたことだけどさ。


【もしもこの攻略本を拾ったのがオリム君以外なら、この文字が見えていることだろう。君は自分が主人公じゃないことにガッカリしているかもしれない。モブなことに絶望しているかもしれない。だからこそ、一つだけ書き残そう。君は、運がいい】


 運がいい?

 思わず笑ってしまった。

 運がいいわけが無い。

 だって、もしも運がいいのであれば、俺は今頃、父さんの畑仕事でも手伝っているか、母さんが作ってくれた昼食を食べている頃だろう。

 ……だから、運がいいわけが無いんだよ!


 本なんかに当たったって仕方がない。

 そう分かっていながらも、感情を抑えられなかった俺は、思わずその場から本を思いっきり力を入れて、投げ飛ばしていた。


 本が空中で不自然に止まる。

 意味が分からなかった。


【個体名、アルスが攻略本の所有者に設定されました】


 宙に浮かんでいる……止まっている本の上に文字が現れたかと思うと、そんなことが書かれていた。


「は? え? 所有者……?」


 さっきまでの苛立ちなんか忘れて、俺は困惑していた。

 だって、意味が分からない……以上に、これ、泥棒なんじゃないのか?


「う、うわっ」


 もうあんな本はあそこに放置して帰ろうかと考えては、でもここは思い出の場所だし、あんな物を残すのは……なんて葛藤をしていると、宙に止まっていた本が突然動き出したかと思うと、俺の手の中にすっぽりと収まってきた。


「なっ!? い、要らねぇ。こ、こんなの、要らねぇよ! そ、そもそも、なんなんだよ! これ!」


 当然といえば当然なんだが、本は俺の叫びに全く反応することなく、突然パラパラと独りでにページが開き始めたかと思うと、また突然止まり、まるでそのページを俺に見ろとでもばかりに動かなく……動かせなくなった。

 なんなら、手からも離れない。


「な、なんなんだよ、これ……」


 恐怖心が湧いて出てきた。

 とはいえ、本当に離れてくれないから、俺は恐る恐るそのページに目を落とし、書いてある文字を読み始めた。



☆     ☆     ☆



 独りでに開かれた本のページを読み終わった。

 簡単にまとめると、内容はこんな感じだった。


 ヒロイン? とかいうやつの一人らしいナナミは両親に売られ、奴隷になってしまうらしい。

 奴隷になったナナミは俺と同じ12歳にして恥辱? に塗れた酷い生活を送ることになるそうだ。一応、具体的にどんな生活を送るのかとかも書かれてはいたんだが、そこは読み飛ばした。……あまりにも最低な内容すぎて、読めなかったんだ。

 とはいえ、3年後にはさっき書いてあった主人公とかいう奴が助け出して、幸せにしてくれるらしい……ということがまるで自分が助けられないことを後悔するような言い訳がましい文章で長々と書かれていた。

 最後に彼女が奴隷として売られる時期や値段、売られてから買われていくまでの日数に助けてやって欲しいということも書かれていた。


「……なんだよ、それ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る