第2話
「……なんだよ、それ」
俺の口から出てきた言葉はそんな言葉だった。
どんな感情で出てしまった言葉なのかは自分の事ながら分からない。
それでも、一つだけ言えることは俺には無理だということだった。
父さんや母さんが死んでしまったばかりで、俺の心的に今はそんな余裕が無いっていうのもあるにはあるけど、俺だって人間だ。
どれだけ辛かろうが、ここに書いてある内容がもしも本当なら、3年後に救われるとはいえ、このナナミって子が辛い思いをするのは分かりきってることなんだ。……こんな本にわざわざ言われなくたって、助けてあげたいと思うには思うさ。
でも、俺には無理だ。
俺は小さな村で育った12歳の子供なんだぞ? ……親に迷惑はかけたくなかったし、村にいる他の子供よりは精神的成長が早いかも? っていう自負は多少あるが、結局はそれだけだ。
ナナミって子が売られる値段はあんまり知識が無い俺でも分かるくらいに人が売られるにしては安い値段だと思う。
……それでも、何も無い、何も持っていない俺にはそんな金でさえも手に入れることなんてできないし、助けることなんて無理なんだよ!
「……こんなの、見せるなよ」
当たり前の話だが、知りさえしなければ俺はこのナナミって子が不幸になることに心を痛める必要なんて無かったんだよ。
「見なかった、ことにしよう。……そうだ。俺は何も見てない。……何も……見てない」
そう呟きつつも、俺は自分に問いかける。問いかけてしまう。
本当にいいのか? と。
本当にここで何も見なかったことにして、俺は母さんや父さんに顔向けができるのか?
……出来ないかもしれない……いや、かもじゃなくて、出来ないだろう。
でも、だからってどうしたら──
そこまで考えて、俺は手の中にすっぽりと収まっている本に再び目を落とした。
……もしかして、この本になら、お金を稼ぐ方法も書いてあるんじゃないのか?
「お金の、稼ぎ方……」
そう思い、俺は呟くようにそう言いつつ、そのまま本のページを捲ってお金の稼ぎ方が書いてあるページを探そうとしたところで、また勝手に本のページがパラパラと捲れだした。
そして、また突然止まった。
そのページを見ると【簡単なお金の稼ぎ方】と最初に書いてあった。
……正直、かなり胡散臭い。
だって、お金がそんなに簡単に稼げるはずがないじゃないか。
そう思いつつも、他に頼れるものなんて無いことは確かだから、俺はそのまま読み進めることにした。
【誰でも簡単にお金を稼ぐ方法は大きく分けて三つ。
まず一つ目は治癒士になることだ。最低限のヒールでも使えさえすれば、一日金貨一枚くらいは稼げるよ。少なくとも、ゲームではそうだった。現実だとちょっと怪しいかも。誘拐とか、怖いからね。権力があるのならやってもいいかもだけど、そういう人は多分、お金なんてそんな稼ぎ方をしなくても手に入るよね。治癒魔法の簡単な覚え方もこの本に書いてあるから、自分で調べてね】
ゲーム? というのはよく分からないが、誘拐の危険性があるのなら、これはやめておいた方がいいだろう。
……他二つの方法を見て、この方法が一番良さそうだったらこれにするつもりだけど、まずは他の方法を早く見てみよう。
いや、待て。
この方法が一番良さそうだったら、これにするつもり? ……なんで俺はもう、危険を犯してまで知らない子を助けようとしてるんだよ。
「あー、くそ。……早く、続きを読もう」
【二つ目は強くなって強い魔物を倒したりして、その素材を売って稼ぐって方法だよ。シンプルでいいよね。簡単に強くなれる方法ももちろん書いてあるから、一つ目同様自分で調べてね。……とはいえ、いくら強くなれても、コネや実績が無い状態で稼ぐのは難しいと思うし、その二つが無くて、もしも直ぐにお金が欲しいのなら、これはあまりおすすめしないかな】
強くなれる方法っていうのは気になる。
もしも本当に強くなれるというのなら、是非とも強くなりたい。
でも、ここに書いてある通りなら、それじゃあナナミって子を助けるには間に合わない。
二つ目は無しだ。
……というか、そんな条件があるのなら、全然簡単なんかじゃないだろ。
そう思いつつも、俺は最後の三つ目に希望を抱き、更に読み進める。
【三つ目は権力者に恩を売ることだね。一応、3月の一度目の月の日にヒロインの一人である伯爵令嬢が盗賊に襲われるから、それを助けてくれれば恩を売れるんだけど、第一に最低限の強さが必要だし、もしも君がナナミを助けようとしてくれているのなら、三つ目はおすすめしないよ。ヒロインの伯爵令嬢が襲われる場所を知りたかったら、本に書いてあるから、調べてね】
三つ目は本当に使えなかった。
確かに、ナナミって子を助けようとしていなかったら、強くなる方法もこの本に書いてあるみたいだし、使えたかもだけど、俺はナナミって子を助けようとしてるんだよ!
3月じゃ遅すぎるんだよ!
……はぁ。仕方ない。一つ目に書いてあった金の稼ぎ方を使うか。……怖いことを書いてありはしたが、もう消去法でそれしか無いんだから、仕方ない。
一旦……一旦は三つ目の項目に書いてあったナナミって子以外のヒロインとかいうやつの情報は無視して、俺はナナミという子を絶対に助けると決意した。
どうせ、俺にはもう、したいことなんて無かったんだ。ちょうどいいじゃないかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます