第2話 王子様は鼻が利く

 朝っぱらから衝撃的な出来事ではあったが、初めてというわけではない。


 履いているパンツを報告してくるのだ、ほぼ毎日。


 直接、目視で確認できるように。


 ちなみに同じパンツは見たことがないような気がする。


 1時限目の数学を終えて、先程パンツを見せびらかしてきた前の席の王子様がこちらに振り向く。


 パンツの感想でも求められるのかと思ったが、


「今の授業で理解できなかった所や疑問に思ったことはないかい?

 あれば答えるよ。

 今日の範囲はなかなかに重要だ。

 テストにも出やすい。

 こことここは特に復習をおすすめするよ」


「あぁ、堅物な教師だが、丁寧で分かりやすい授業だからな、大丈夫だ」


 悪びれることも照れることもなく、普通に話しかけてきた。


 もうちょっとこう、なんかあるだろう?


「ん? どうしたんだい?」


「なんでもねぇよ。

 それよりも…」


 朝と同じく、さっきから女子の視線が煩わしい。


「おっと、お姫様達が何やらこちらを見ているね」


 そう言うと、席を立った。


「キミへのヘイトがピークにならないうちに何事か聞いてこようか」


 冗談めかして、オレに耳打ちする。


 ちょ、おま!


 そういうことするとまたオレへの敵意があがっちゃうだろ、めんどくさい!


 女子どもからの視線には、もはや殺意すら籠っているんではなかろうか。


 アイツは分かっていてやっているんだろうが、悠然と女子の群に向かっていった。


 黄色い声に迎えられ、アイツはたわいもない会話に次々と答えながら愛想を振りまいている。


 アイツを中心に賑わう輪を眺めながら考えた。


 容姿端麗。

 可愛いよりも格好良いという顔立ちではあるが、女として見た場合でも美人だ。

 少なくとも学園内でも指折りの美形だろう。芸能人でも苦しい。しかもアイツはノーメイクだ。


 品行方正。

 アイツを悪く言う人間を見たことがない。女子はおろか男子もだ。

 まぁ、アレだけ美形ならさもありなん。嫉妬されることもなく、女子からも男子からも人気がある。

 若干、八方美人な面もあるがこれは気配りと、付き合いの良さ故だろう。


 頭脳明晰。

 学内はおろか全国模試でもトップクラス。勉強が趣味みたいな人間と比べても遜色ない。努力を人に見せるタイプではないが、勉強にはそれほど力を入れていないように見える。できて当たり前というか、自らには大目標があり、その達成のための小目標の一つといった感じか。


 文武両道。

 運動もほぼ万能だ。部活の助っ人をできるヤツがリアルにいるとは。

 唯一持久走が苦手のようだが、『胸が大きいからさ』とのことだ。

 確かに制服のブレザーの上からでも大きいのは見て取れるし、癖になっているのか立っている時に胸を持ち上げるようにしている姿をよく見る。

 オレもついつい視線をやってしまうこともあるのだが、それに気がつくとアイツは寄せて上げて強調してくるのだ、谷間を!

 はたと気がついた時にはもう遅く、「堪能したかい?」とばかりにニヤリと笑うのだ。

 こちらとしては、堪能したし目の保養にもなったしで何も言えない。ぐぬぬ…


 と、取り留めのないことを考えているとチャイムが鳴った。アイツを中心にできていた輪も解散して各々席に戻っていく。


 アイツも戻ってきて、オレにそっと耳打ちした。


「いつものようにフォローしておいたよ」


「ちょっ!? だから、そういうのをやめろって!」


 鋭い殺気が突き刺さってくる。


「なんだい、ボクの労力に対する感謝くらいしてもいいじゃないか」


 そう言いながら、殺気の方向へにこやかに手を振るとあっさりと気配が消えた。


 愛想のいいヤツだ。正直ありがたいが理由の一端はコイツにあるのは解せぬ。


 あと、いい加減離れてくれ。また殺気が膨れ上がるから。


 目配せしたがどこ吹く風で、顔をオレの首筋に近づけたまま、すんすんと鼻を鳴らした。


「なんだよ?」


「入浴後、10時間と言ったところかな?

 それよりも…」


 額に手を当てて、前髪をクシャッとやる王子様。 


 なんで自然とそういうイケメン仕草ができるのか? 見ろ、こっちを眺めていた女子が真っ赤じゃねーか。


 あとな、男のオレでもドキッとするから、ホント目に毒だ。


「…今朝、日直の時に誰かと会ったかい?

 キミから知らないにんげんの匂いがする」


 怖いわ!


 匂いでわかるってどういうことだよ?


 あと、なんでオレが風呂はいった時間までわかるのっ!?


「他のクラスの日直と先生から頼まれて荷物運びをした」


「女子かい?」


「…そうだな」


「ふむ、それならまあ仕方がないか」


「…いいから離れ、うひぃ!」


 離れ際に、ふぅっと耳に息を吹きかけられた。ゾクゾクと背筋が痺れる。


 耳を押さえながら睨むと、王子様は悪戯っぽく笑い、ようやく大人しく席に着いた。


 まあいい。次の授業に集中することにしよう。


 前の席のコイツも、今回はパンツを見せてくることなくきちんと正面を向いている。


 いつの間にかブレザーを脱いで、白いブラウスからパンツと同じデザインのブラジャーが透けて見えているが、それも、まあいい。

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