君を想うということ
鷹橋 ねきょ
本編
きっとこういうことを呪いというのだろう。僕はため息をつく。パソコンのモニターにぶつかった僕のタバコ色の吐息は虚しく拡散した。
「好きなんだけどなぁ」
好きな人ができた。一週間前にたまたまネットニュースで見かけたその顔に一目惚れした。その笑顔に。きっと素敵な人なんだろうなあってその写真をクリックすると、死亡の二文字が目について、彼女は自死していたと知った。
彼女のSNSを探し当てて一晩かけてそのつぶやきを読んだ。時におかしく、また儚いツイートで彼女は私を見て、と言っているように思えた。
四畳半の片隅に座りビールのプルタブを開けてすぐにそれを口にする。酔わずにやってられっか。
恋煩いよろしく僕は彼女の虜だった。
昨日購入した練炭が部屋の端でくすぶっている。僕は死ぬ。地獄でもいい、彼女に会いたい、その一心だった。
「なかなか効かねーな、練炭で自死って難しいのか」
火は付いているみたいでこの時期だから暑い。どんどん酩酊していっているのか、頭が回らない。まぶたが重い。次の瞬間僕の意識は暗転した。
もやのかかった世界が広がる。
その女の子が僕に膝枕をしていた。僕は彼女とは面識がない。
「こんなところで寝てると死んじゃうよ」
呂律が回らない口で、「いいんらよ、ひきててもいいことないひ」と呟く。
「そんなこと言わないで。……ただ私を見つけてくれてありがとう」
またね、というと僕の体はがくんと降ろされるような感覚がした。酔いも覚めた。
いつもの四畳半が目に入る。息はできる。生きてもいた。
古いパソコンが壊れたようなけたたましい音が部屋の上の方からした。エアコンがうなっている。そこから水が滴り落ちてそれで火が消えたらしい。
「まるであの子が泣いているみたい」
やっぱり彼女には会えないのだと思い知った。
君を想うということ 鷹橋 ねきょ @whiterlycoris
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