[総ルビ]異世界辺境村スモーレルでスローライフ

3. ハニー大作戦

●3. ハニー大（だい）作戦（さくせん）

　数日（すうじつ）後（ご）、またカエラばあさんと、山（やま）に入（はい）っていた。

　ばあさんは毎日（まいにち）山（やま）に行（い）くわけではなく、取（と）ってきて次（つぎ）の日（ひ）はその草（くさ）の処理（しょり）をしたりする。

　そしてしばらくするとまた取（と）りに行（い）く。

　この時期（じき）は春（はる）の新芽（しんめ）が出（で）る季節（きせつ）なので、取（と）りに行（い）く頻度（ひんど）が高（たか）い。

　背中（せなか）には麦（むぎ）ワラ（わら）で編（あ）んだ、ちょっと雑（ざつ）な籠（かご）を背負（せお）っている。

「ばあさん、花（はな）の蜜（みつ）を吸（す）いにくる虫（むし）いるじゃん、名前（なまえ）なんだっけ」

「ああ『ハチ』じゃな」

　よし、ハチのマールラ語（ご）を教（おし）えてもらった。ハチ、ハチ、ハチ、ハチと心（こころ）の中（なか）で復唱（ふくしょう）する。

　村（むら）では外（そと）と交流（こうりゅう）することも少（すく）ないし、無知（むち）の子供（こども）たちだけで遊（あそ）ぶことが多（おお）いから、知（し）ってる単語（たんご）が極端（きょくたん）に少（すく）ないと思（おも）う。

　知識（ちしき）の重要性（じゅうようせい）を前世（ぜんせ）の記憶（きおく）で思（おも）い出（だ）した俺（おれ）は、ハチみたいに、必要（ひつよう）ならどんどん教（おし）えてもらう。

「そのハチの蜂蜜（はちみつ）をさ、集（あつ）めたいんだけど」

「ああ、山（やま）の中（なか）の木（き）の洞（うろ）によく巣（す）を作（つく）るんじゃな。巣（す）を探（さが）すのが大変（たいへん）でこの国（くに）では貴重品（きちょうひん）じゃな」

「そうだよね。だからさ、この時期（じき）に巣立（すだ）ちとかするんだよね？　それで木（き）の箱（はこ）を村（むら）の隅（すみ）にいくつもおいて、ハチを育（そだ）てたらお金（かね）になると思（おも）うんだけど」

「なるほど、人工的（じんこうてき）に洞（うろ）を作（つく）って、そこにおびき寄（よ）せるんじゃな、なるほど、よく考（かんが）えたの」

「でしょう」

「まぁやってみるといいわ」

「それで、おびき寄（よ）せるのに、多少（たしょう）の蜂蜜（はちみつ）が欲（ほ）しいんだけど、当然（とうぜん）のようにうちにはないわけでして、カエラさ、持（も）ってないかな」

「おお、持（も）っておるぞ。一部（いちぶ）の薬（くすり）には蜜漬（みつづ）けにするものがあってな、多少（たしょう）は買（か）ってあるわい」

「やった！！」

　と、ちょっと遠回（とおまわ）りな会話（かいわ）をしつつ、養蜂（ようほう）の目途（めど）というか、お墨付（すみつ）きをもらった。

　意見（いけん）が出（で）たら、早（はや）いほうがいい。

　すぐに父（とう）ちゃんに言（い）って、木（き）を分（わ）けてもらう。

　木材（もくざい）は薪（まき）にするためにまだ割（わ）ってないのが大量（たいりょう）にあるし、家（うち）を建（た）てる端材（はざい）もある。

　巣箱（すばこ）にちょうどよさそうな、板（いた）をもらってきて、巣箱（すばこ）を組（く）み立（た）てた。

　この世界（せかい）には、スズメバチはいないらしい、というか聞（き）いたことがないので、たぶんいないと思（おも）う。

　いるなら山（やま）に入（はい）るときに注意（ちゅうい）するように言（い）われるはずだ。

　何（なに）が重要（じゅうよう）かと言（い）うと、スズメバチは巣箱（すばこ）に入（はい）らないように入（い）り口（ぐち）を狭（せま）く作（つく）らないといけないが、いないなら細（こま）かいことは考（かんが）えなくていいと思（おも）う。

　クマが出（で）たらそのときだけど、この近（ちか）くはあまりでない。あまりなので絶対（ぜったい）ではないが、まぁ抵抗（ていこう）するだけ無駄（むだ）だろう。

　当然（とうぜん）のようにこの村（むら）は城壁（じょうへき）などに囲（かこ）まれていたりはしないのだった。

　木材（もくざい）と釘（くぎ）と、それから木槌（きづち）とノコギリで巣箱（すばこ）を四（よっ）つ作成（さくせい）した。

　釘（くぎ）やノコギリなどは家（うち）を建（た）てるためや、各種（かくしゅ）ものを自作（じさく）するために元（もと）から家（いえ）にあった。よかった。工作（こうさく）器具（きぐ）までないと、一気（いっき）に詰（つ）む。

　全部（ぜんぶ）の巣箱（すばこ）に入（はい）るとは限（かぎ）らない。正直（しょうじき）、俺（おれ）の贅沢（ぜいたく）のためにたくさん欲（ほ）しい。

　だって、この世界（せかい）には砂糖（さとう）が無（な）いのだ。

　砂糖（さとう）という言葉（ことば）自体（じたい）、聞（き）いたことがない。

　甘味（あまみ）や甘（あま）い、そして蜜（みつ）という言葉（ことば）はあるが、砂糖（さとう）は無（な）い。

　その後（あと）、おばばに砂糖（さとう）について聞（き）いたところ、はるか遠（とお）くの海（うみ）の向（む）こうのほうに、たくさん取（と）れるという伝説（でんせつ）があるとかなんとか。

　だから甘味（あまみ）といえば蜂蜜（はちみつ）なんだけど、その蜂蜜（はちみつ）すら貴重品（きちょうひん）扱（あつか）いなのだった。

　俺（おれ）たちはヤマツツジの蜜（みつ）を吸（す）ったりしてたので、甘（あま）い蜜（みつ）は知（し）っている。

　あ、ちなみに地球（ちきゅう）のツツジの仲間（なかま）には毒（どく）がある種類（しゅるい）があるので、注意（ちゅうい）が必要（ひつよう）だったりする。

　カエラばあさんに、蜂蜜（はちみつ）をほんの少（すこ）し分（わ）けてもらい、巣箱（すばこ）に塗（ぬ）って匂（にお）いをつける。

　そしてあとは待（ま）つだけだ。

　楽（らく）ちんといえば楽（らく）ちんだった。

　そして、少（すこ）し経（た）ったある日（ひ）、見（み）に行（い）ったら四（よっ）つ中（ちゅう）、三（みっ）つにハチが入（はい）っていた。

「よっしゃ、やった」

　ガッツポーズをする俺（おれ）を見（み）て、不思議（ふしぎ）そうな顔（かお）をするドロシーとリズ。

「これで、甘（あま）いものが食（た）べられるようになるぞ」

「本当（ほんとう）？　やったにゃん！」

「ブラン、私（わたし）にも分（わ）けてくれる？」

　俺（おれ）が簡単（かんたん）に説明（せつめい）すると、喜（よろこ）ぶ二人（ふたり）。

「まぁ今（いま）すぐじゃないから。どうどう。静（しず）まりたまえ。ハチさんが集（あつ）めてくるまで、時間（じかん）かかるんだよ」

「そうなんだにゃん。にゃんだ」

「ふふん、それくらい知（し）ってるわよっ」

　二人（ふたり）はしょんぼりしつつ、目（め）はキラキラしていた。肉食獣（にくしょくじゅう）みたいでちょっと怖（こわ）い。