弊社に来た無能コンサルタントにムーンサルトプレスをかましてやった話、聞く?

日和崎よしな

導入「その夢を見た経緯」

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。いや、10回目だったかもしれないし、もしかしたら11回目だったかもしれない。

 ……ごめん、少し盛った。

 でも少なくとも2回は見たと思う。


 悪夢だった。


 温厚な私がキレて毎回ムーンサルトプレスを決める程度には悪夢だった。


 私が同じ夢を何度も見た原因は、不安で仕方がないことがあって、四六時中それについて考えてしまうからだろう。


 私は電子部品を製造する中小企業の課長なのだが、そんな私にとある命令が下された。


 それは、最近になって半導体製品の歩留まりが落ちたから原因を追究して是正しろというものだった。

 歩留まりというのは「原料の投入量から期待される生産量に対して、実際に得られた製品数量の割合」である。要するに、良品率のことだ。


 原因ははっきりしている。4月に入ってきた新人たちがミスをしまくるのだ。何度注意しても直らないし、いろんなアドバイスを試みても徒労に終わる。


 とある新人なんて、社用車で倉庫に突っ込んだ挙句、それを放置して家に帰ってしまった。ミスどころではない。彼らの教育は私の手に余る。


 そこで、私はコンサルタントに新人の教育と指導を依頼することにした。


 最初は経営陣から無駄な支出だと渋られていたが、しつこく打診していると、あるときコロッと手の平を返してきて、「ぜひ依頼しよう!」と言ってきた。依頼相手指定のおまけ付きで。


 そのコンサルは紫芝重男ししばしげおというらしい。不安になって調べてみると、案の定、評判は最悪だった。


 誰に依頼するかは私に選定させてほしいと言っても聞き入れてもらえなかった。おそらくコネか何かの関係で結びついているのだろう。

 私は仕方なく紫芝重男のコンサルを受け入れることにした。


 そして今日がそのコンサルが来る当日なのだ。


 そのコンサルについての悪夢を、今日までに9回も見た。いや、もしかしたら2回しか見ていないかもしれないけれど、とにかく何度か見た。


 そして、まさかその夢が正夢になるとは思ってもみなかった。

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