【KAC2025】夢は夢【KAC20254】
御影イズミ
これは、――
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
何故そんな回数覚えているのかは、よくわからない。
けれど私は、はっきりと覚えてしまっている。
私が世界を壊している夢。
ありとあらゆるコントラ・ソールを駆使して、目の前にいる家族や仲間達の引き止める声すら聞くことなく、破壊の限りを尽くしていく夢。
生命の生存も、大地の崩壊も、私にとっては些末なことで。人々の悲鳴と、引き止める声と、世界が壊れる音だけが鮮明に脳裏に蘇っていく。
「…………」
9回目。
これで、もう、9回目。
これは本当に、夢で済ませられる話なのか?
私の頭の中は疾うの昔に壊れてしまっていて、今目の前で起きていることのほうが夢ではないのかと考えてしまうほどに、この夢は私を蝕んでいる。
こうして呼吸を繰り返して、状況を整理しようとしている『今』が夢なのではないか。もう一度ベッドの中に入り、現実に戻ってしまったほうがいいのではないか。そう考えるほどに。
『フェルゼン』
私の名前を呼ぶ声がする。
これは現実だと教えるかのように。
セクレト機関の中枢、司令官システムの内部に存在する一員。
アステリ・ラス・ヴェレット。――私の、フェルゼン・ガグ・ヴェレットの伯父。
彼は姿は見せることはなかったものの、声だけを私に届けてくれた。
「……伯父様。どうしましたか」
『起床時に心拍数の増大が見られたからね。何かあったのかと』
司令官システムはセクレト機関内にいる全
起床時の心拍数の増大は9回目の同じ夢を見たことによるショックと混乱によるもの。私は伯父にそれを説明しようと思ったが、ここでこのことを彼に伝えてはいけない気がした。
――何故か、そうすると夢の中では済まされなくなるような気がして。
「……起きた時間が時間だったから、ですかね」
『そうかい? でも今日と明日はキミは休みだろう』
「休みでもこんな時間に起きては、誰だってショックを受けるものですよ」
『そうかなあ』
時計を見れば、時刻はすでに正午を過ぎている。
この時間まで眠ったのは、昨日朝日が昇るギリギリまで仕事をしていたせいでもある。故に私はそのせいで眠りすぎて今の時間に起きたことがショックだったと証言しておいた。
……まあ、伯父には隠し事は出来ないのだけどね。彼のコントラ・ソールのせいで。
「さて。じゃあ伯父様、私はこれから昼食を取るので失礼します」
時間が時間だ。昼食を取らなければ、私の身体は持たないだろう。
朝食を抜いてしまっている分、今日は少し多めに食べる必要があるし、何より水分不足が問題になる。
私はゆっくりと立ち上がって、クローゼットへと向かう。
『うん。スーには一応報告しておくからね』
伯父は父――スヴェンに今回の件を報告しておくと言って、そのまま通話を終了させた。
父もまた司令官システムにいるのだから、そうなるか……とは思ったものの。多少心配性なところがある父に報告されるのも、なんだか面倒なことが起こりそうだとは思った。
でも、それでよかったと。
あとになって考えてみれば、伯父の判断は正しかったと思えた。
9回目も繰り返される夢。
それはただの夢ではなく『予知夢』だったのだと、あとになって気付かされた。
【KAC2025】夢は夢【KAC20254】 御影イズミ @mikageizumi
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