(二十一)オレに甘過ぎる中華飯店
「龍治! 今日は、もう上がって良いぞ!」
「えっ、もうヨロシ?」
店長の声に、ついオレは目を丸くした。そんなオレを見た店長は「お前は本当に、かわいい顔してんなぁ! まるで驚いている猫みたいだな!」と笑い、言葉を続ける。
「ああ。いくら大人びているとはいえ、カンフー道場の師範代とはいえ……まだ龍治は高校生なんだ。これくらいで、オッケーだよ!」
「……うーん……」
やっぱりオレは子どもか……。
それはそうと、なぜだろう。
何だか今日は、あまり働いた気がしない。
「ん? どうした龍治?」
「いや、そんなにオレ……働いていたかなぁって思ったアル」
「何を言うんだ! 龍治は、きちんと頑張っていたよ!」
「でも、いつもより働いている時間が短かったような……」
「そりゃ気のせいだろ……あっ! そうか、そういうことか!」
「はいはい?」
どうやら店長は、何かピンときたようだ。しかもニヤッとしている……。
「お前……あの花世さんって女の子といるのが楽しかったから、時間が短く感じたんだな?」
「……あー、そうかもしれないアルね」
確かに、花世ちゃんとの食事は楽しかった。話しているときも、家まで送っているときも……。
「花世ちゃんは、気配り上手なお姉さんアル。こんなガキのオレとも楽しく話してくれて、とても優しい女性だったアル」
それと……よく見せてくれた笑顔が、ずっとオレの中から離れない。
「……そんだけ?……」
「いや、そんだけって言われてもねぇ……。それ以外に、何があればヨロシ?」
「……まあ良いや。ああ! 上がる前に、ちょっと待っていてくれよ!」
「はーい」
仕事を切り上げてから数分後……。
「ほら、これ持って帰れよ!」
「ん? ……アイヤァーッ!」
店長がオレに見せてくれたのは、たくさんの手土産だった。中華惣菜が詰められ、口を輪ゴムで止められた容器がいくつか入れられた、ビニール袋。
「店長……こんなにいただいちゃって、本当にヨロシ? オレ、そんな働いていないアルよ?」
「良いんだよ! 持ってけ師範代!」
これは今に始まったことではない。この店のスタッフは全員オレに優しい……いや、甘いのだ。毎回こんなに持ち帰って、オレは罰が当たるのでは?
しかし、
「謝謝! 全部ありがたく、いただくアル!」
食べ物や人の気持ちを粗末にする方が罰当たりだろう。オレは遠慮なく、ありがたく全ての中華惣菜を持ち帰ることにした。
「おう! たくさん食べな!」
オレの素直な選択に、店長もニコニコと喜んでいる。ああ、オレは幸せ者だ。
「お疲れ様でした! お先、失礼します!」
「龍治お疲れさーん!」
「龍ちゃん、気を付けて帰りな~!」
「お龍、またねぇ」
まだ客がいる店を出たオレは、ホクホクで帰宅した。
「ただいま~」
家に着くまで悪者は現れなかったので、闘うことのない平和な帰り道であったが……。
「お帰りなさい! もうっ! 家に帰るなら、電話しなさいよ! 迎えに行ったのに……」
帰宅したら母ちゃんが怒ったので、もう平和ではなくなった。
「別にオレは大丈夫って、前にも言ったはずアルよ?」
「だから龍治……あんたは、まだ未成年でしょ! どれだけ龍治が強くても……母ちゃんは、あんたを心配するわ!」
「やれやれ……。ほら母ちゃん! お土産アルよ!」
「まあ!」
ゴチャゴチャうるさい母ちゃんの文句を止めたのは、さっき店長に持たされた中華惣菜の数々だった。
「やだっ! また貰っちゃったの? 本当に親切な人たちね~。今度、何か差し入れでもしようかしら?」
「哈哈哈。それが良いアル。正直あの人たち、オレを甘やかし過ぎアル。どれだけオレが働いても足りない。そして……いつだって、そんなにオレを働かせないよ」
やはりオレは、あの店から世話になっている分を働いて返せていない気がするのだ。あんなにも良い人たちのために、もっとオレは頑張らなくてはならない。
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