(十八)ちょっと食休み

「ごちそうさまでした」


 花世ちゃんが手を合わせて挨拶し、その数秒後にオレも「ごちそうさま!」と食べ終えた。もちろんオレは食べるのが遅いわけではなく……。


「龍治くん、いっぱい食べるんだね~! おかわり5杯もしちゃうなんて、すごーいっ!」

「哈哈哈。食べるの大好きなもんで……つい」


 今日で2度目ましてのお姉さんが隣に座っていることにも構わず、いつものようにオレは食事をした。いつになく? いや通常通りか? とにかく食が進んだ。まあ、初対面の人がいても大食いをするのがオレだ。別に今更、恥ずかしがることとかはないのだけれど……。


「わたし、つい見惚れちゃった……。迷惑だったら、ごめんね?」

「いや、そんな全然! というかオレの方こそ気にせず食べちゃって……なんか、すみません」

「いえいえ~。あんなにおいしそうに、きれいに完食していて……。見ている方も気持ち良かったよ~。生で大食い番組を見ちゃった気分!」

「そ、そうですか……」


 花世ちゃんが笑顔で軽く拍手してくれて、オレは恥ずかしさと喜びが混ざった謎の感情を抱いた。決して不快だとか、そういうのではないのだが。

 ……やっぱり花世ちゃんにとって年下ガキなんだよなぁ、オレは……。


「今に限らず……いつも、そんなにたくさん食べるの?」

「そうですね~。他の店で行われている大食いチャレンジとか、よく参加します。この前も成功して賞金ゲットしましたよ。というか無敗です」

「すごーいっ! 本物のフードファイターなんだね……!」

「まあ……その賞金も、すぐに消えちゃいますけどね~。家に入れたり、自分の服とか食費とかに使っちゃったりして」

「お家にお金、入れているんだ。龍治くん、優しいね。わたしは自分が高校生のとき、そんなことしたかなぁ……」


 まさか花世ちゃんから、こんなに褒められるとは思ってもいなかった。それは社交辞令とか気遣いとか、そういうものだろう……なんて済ませたくはない。真っ直ぐで優しい言葉というのが伝わってくる。


「オレの家はギリギリなので……。カンフー道場の経営って、あまり安定したものではないです。ギャンブルをやっている感覚にもなります」

「ギャンブルかぁ……。そういえば、大食いチャレンジもギャンブルだよね」

「哈哈哈。この前、母ちゃんにも同じようなことを言われました。でも負けたことないし、楽しいからオレは大食いをギャンブルって思ったことはないかも……」


 ここで思わず、ギャンブル好きとなってしまった親父のことをポロっと言ってしまいそうになったが、どうにかストップした。今、ギャンブル狂と化したあいつは……間違いなく九頭見家の汚点だ。


「……龍治くんは、とっても頑張り屋さんなんだね。わたしも見習わなきゃ。あっ! そろそろ、お会計!」


 花世ちゃんの言葉で、軽い食休みが終わる。もっと話していたかったけれど、お互い色々あるから仕方がない。

 それにしても見習わなきゃって……。

 大人のお姉さんに、そこまで言われるのは初めてだった。ちょこちょこ自分を下げて、こんなガキを褒めてくれる花世ちゃんに何も言えなかったオレは情けない。

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