(十五)夕食は、まさかのあの人と共に

「どうして、ここに……あっ」


 ここでオレは、いつもなら「ハッピーアイスクリーム!」と叫ぶだろう。しかし相手が相手だ。声が揃って、ちょっぴり恥ずかしくて固まってしまった。ハモった相手が真男だったら、絶対にアイスを奢らせているというのに……!


「フフッ……声、揃っちゃったね」

「は、はい……」


 気まずそうなオレを気遣ってくれているのか、花世ちゃんは笑っている。


「お龍、どうしたの?」

「あ!」


 しまった。オレは今この中華飯店のスタッフとして働いているのに……。ギャル店員のお姉ちゃんに声をかけられてハッとした。


「あー……。お知り合いでしょ、こちらのお客さん」

「は、はい……」


 やばい。今オレ……なぜか、すっげー恥ずかしくなっている。


「何名様ですか?」

「1人で来ました」

「そうですか。当店は初めてですか?」

「はい。初めてです」


 何か、お姉ちゃんがサクサクと花世ちゃんと話を進めている……。初対面のはずなのに……女子同士、気が合うのか? いや、ただの客と店員の会話だ。これくらいは普通か……オレには無理だったが。別に人見知りをしているつもりはないし、いつものオレなら初対面の人と(花世ちゃんと会うのは2回目だが)もっと話せるはず。なぜだ……。


「お龍、休憩入っちゃいなよ」

「……はいはい?」


 お姉ちゃんから予想外の提案。確かに、まだオレは夕飯を食べていないが……。


「どうせ夕食まだでしょ? こっちは大丈夫だから。こちらのお客さんに色々と教えてあげなよ、この店のこととか。お龍のこととか」

「店のことはともかく、オレのことを……?」

「だって最近、九頭見道場に入門した方なんでしょ?」


 ああ、そういうことか。それなら確かに色々と話したいかも。


「じゃあ、休憩入ります……」

「ほら、あそこ座りなよ! ちょうど2人分、空いてんじゃん!」


 お姉ちゃんが指定したのは、なぜかカウンター席だった。それだと、花世ちゃんとオレが隣同士になるが……。オレは指差しながら、花世ちゃんに確認する。


「……花世ちゃん、あの席で大丈夫ですか?」

「うん!」

「そうですか。行きましょう」

「はーいっ」


 ずっと花世ちゃんが楽しそうなので、そこは安心している。オレのことを全く意識していないからこそ、さっきから態度が少しも変わらないのだろう……。いや別に良いだろうが、それで!


「どうぞ」

「あ、ありがとう~」


 席を案内して、オレは花世ちゃんが座る椅子を後ろに引いた。花世ちゃんはニコニコしながら着席し、その隣にオレも座った。すると、お姉ちゃんがお冷やとおしぼりを持ってきてくれた。「ありがとうございます」と花世ちゃんが言い、お姉ちゃんがニコッと頭を下げる。その様子を見たオレはテーブルに置いてあったメニューを手に取って花世ちゃんに見せた。


「何にしますか? 食べたいもの、あります?」

「ごめんね、まだ悩んでいて……あっ! じゃあ龍治くんのオススメとか食べたいものを教えてくれますか? それを、わたしも注文しようかな……」

「ああ、それなら……!」


 オレは花世ちゃんに、自分のお気に入りメニューの数々を教えた。花世ちゃんは何についても「おいしそう!」などと心から楽しそうにコメントしてくれたのでホッとした。

 そして色々と話をして……。


「すみませーんっ」

「お龍、決まった~?」


 オレは注文するために、お姉ちゃんを呼んだ。

 そして注文を終えたオレは「さて……」と心の中で呟いた。


「花世ちゃん」

「はいっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る