(十四)カンフー道場師範代、中華飯店スタッフとなるの巻

 今夜は、道場の稽古は休みだ。そんな夜にオレはカンフー道場の師範代ではなく、何をしているかというと……。


「龍治~! 次は、これを頼む!」

「はいは~いっ!」


 行き付けの飲食店の手伝いだ。24時間営業カラオケ付きの、あの中華飯店のことである。実はオレは、この店のお代は働いて返すことがほとんどだ。だから、あくまでもバイトでもボランティアでもなく「手伝い」という言い方なのだ。ツケてもらって、一気に働いて返す……という方法だ。財布が淋しいときには、とても助かっている後払いシステム。

 母ちゃんには「まあ社会勉強になるし、良いかしら」という理由で、そのやり方を許可されている。旧知の仲ということもあって、あっさりOKであった。

 この店でオレが任される仕事は、主にホール。たまに皿洗いや調理補助も、やるけれど……やっぱり接客ばかりだ。なぜなら……。


「龍治は、かっこいいから客の前に出るべきだ! こんな男前が働いているなんて知ったら、どんどんお客さんが増えるぞっ!」


 というようなことを、店員さんたちに言われてしまったからだ。実家の道場といい、この中華飯店といい……どうやらオレは、客寄せパンダとしての才能があるらしい。

 ちなみに制服は貸してもらっていない。つまりオレは、自宅から店に来て着替えず、そのままの格好で接客をしているのだ。その理由は、


「この店の制服より、いつものファッションで働いてくれ! 中華服だと、やっぱり雰囲気が出て良いだろ? 一応、必要ならエプロンとか貸すけどな!」


 とのことだ。いつもの格好で楽なような、何だか物足りない気もするような……。中華飯店スタッフならではの服装が、ちょっぴり羨ましくなるのも否定できない。まあ制服ではなく、普段着にエプロンという姿の従業員もいるが。そこら辺は自由だが、もちろんみんな仕事熱心。だからオレも、


「お待たせしました~! こちら、油淋鶏定食アル!」


 一生懸命に働いている。一切、ふざけていない。


「話し方も別に気にせず、いつも通りで良い! というか、なるべく後ろにアルヨロシを付けて喋ってくれ! ファッションと同じで雰囲気が出るから! あっ……たまにポロっと、中国語が漏れるのも良いかもな!」


 とにかく、この店のスタッフたちはオレに「中国人」を求めているのだ。

 せっせと働きながら、ふと思い出す。今夜みたいに手伝っていたある日、家族で食事をしに来た真男がオレを見るなり「お前は安達か」と言ってきたことを。その言葉にオレが「オレ安達ナイ、お前しまむらナイ」と返したことを。

 やれやれ真男の奴は、なんて思って歩いていると、ガラガラガラ……と戸が開かれた。


「はい、いらっしゃいま……あっ」

「あれっ?」


 思わず、挨拶が途切れた。今オレは、手ブラで本当に良かった。もし何かを持っていたら、オレはうっかり落としてしまっていたかもしれない。


「花世ちゃん……」

「龍治くん……?」

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