(十二)「差別的表現」ではなく「個性的表現」としてアルヨロシを使用しております。
「でも、アルヨロシを良く思わない人もいるんだよな。差別のように感じられるってことで」
「まあ確かに色んな人間がいるよな~。おれは差別って思ったこと、ないけど。『中国人といえば、それ』みたいなイメージ! でも実際に、アルとかヨロシとか言っている中国人は全然いない!」
それはそうだ。
だが……。
「アルやヨロシなんて言ってんの、お前しかいねーよ。あとは漫画とかアニメとかに出てくる中国人キャラ!」
それもそうだ。
しかし……。
「そういうことだし、お前もうアルヨロシ言うの、やめたら? やっぱ勿体ねーんだよ龍治は。せっかくかっこいいのによー……」
「いや、やめない。やめたくない」
「えー、何で?」
オレは「龍治って中国人っぽくないよね」と言われてから、語尾に「アル」や「ヨロシ」を付けて話すようになった。別に気にすることではない、と言われるかもしれないが、当時のオレにとっては気にすることだった。いや、今も気にしているな……。
その結果オレは、よくフィクションの中国人を意識した話し方をするようになった。それでも毎回というわけではなく、きちんとTPOを考えて話している。だから日常生活に支障は特にないし、それに……。
「今更やめたらオレらしさがなくなるし……何より、かわいいからやめたくない」
「ズコッ! ぶりっ子かよ、お前!」
そう。語尾に「アル」や「ヨロシ」を付けると……何だかかわいく感じるので、やめたくないのだ。
「それに、よく喜ばれるんだよ。オレが中華服を着たり、カンフーをしたり……アルヨロシを語尾に付けて話すと。『わあー、中国人だ!』とか笑顔で言われて。オレは悪い気はしないね」
自分が少しでも中国人であることを忘れたくないオレにとって、誰かに中国人と感じてもらえるのは大変ありがたいのだ。くだらないとか謎のこだわりとか思われるかもしれないが、オレには重要なこと。
まあカンフーや中華服は「気付いたらやっていた」が。物心ついたときから、というやつだ。染み着いている文化。それをやっている歴=年齢、と表現しても間違ってはいないと思う。
「オレはアルヨロシを『差別的表現』ではなく『個性的表現』と考えれば良いんじゃないか、と思っているんだ」
「つまり、ものは言いようってことだな……」
「そういうこと」
「はいはい……」
真男は「しょうがねー奴だなぁ」と呆れ顔で笑っている。オレについて色々と思うことはあるのだろうが、それでも真男は受け入れてくれる。長い付き合い……幼馴染みで親友というのもあって、許せる部分もあるということだろうか。
「でもオレと似たような考えとか悩みとか、こだわりとかを持っている人も多いぞ?」
「まあ、それはそうだな。おれも龍治のこと、言えない」
「だろ? でも結局は何が差別で何が差別じゃないなんて、それぞれだよなぁ……。例えば……ハーフとかクォーターっていう表現もオレは傷付かないけど、傷付く人もいるみたいだし」
「おれ……その言葉、普通に言っちゃうよ。じゃあ、どんな言い方をすれば良いんだ?」
「難しいよなぁ……でも大事なことではある」
「そりゃあ大事だ」
「それはそうと……そろそろ道場、行こうぜ?」
「うん、そうだな」
座って話していたオレたちは立ち上がり、今日やることに取りかかり始めた。
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