二丁目スナックさいかわ さいかわママ編
註:初見の方はこちらから読んでいただくと世界観がわかるかもしれません。
https://kakuyomu.jp/works/16818093078231847322/episodes/16818093079534739785
いらっしゃいませ~って、あら、これまたお久しぶりじゃない。元気してた? アタシ? あたしは元気よ。年末年始体調崩してしまったけれど、今はぴんぴんよ。
あら、今日はカッコイイ子連れてきたじゃない。彼氏? え、違うって? 同じ文芸部? ふーん。そうなの。まあいいわ。こんばんは。アンタいい男ねえ。こんなちんちくりんな子より、アタシはどう? ……遠慮しておきますって、見る目ないわねぇ。
まあいいわ。座りなさいな。何か飲みたいもある? アタシのおすすめでいいの? おっけー。そうねぇ。では春ということでこんなのどうかしら。
(製作中)
……はい、桜のリキュールを使ったジントニック。桜のジンではなくて、あえて桜のリキュールとオールドジンを使っているのがポイントよ。最後に桜の花びらの塩漬けを一枚添えて。え? この塩漬はどうしたのかって? 裏の公園の桜からって……いけない、彼氏くん。ウチのノリを知らないんだったわね。アンタちゃんと躾けときなさいよ。彼氏くん冗談よ。これはウチのオーナーが買ってきていたひとくちサイズのアンパンについていたものを拝借したのよ。どうせ気づきはしないわよ笑。
といいつも、個数多いし怒られるのも嫌だから、おつまみとしてアンパンを出しちゃうわね。食べちゃってね。
で、久しぶりにこのスナックに来たということは、アンタまた参加したのね。え、彼氏くんも? そう、それはどうもありがとう。どうだった? 緊張しましたって? そんな緊張することはないわよ。わたしもこの一年でずいぶん丸くなったのよ。
アンタはどうだったのかしら。今回は自信を持って書けた? そう。それならそれでいいんじゃないの。去年ピーピー泣いていたときに比べたらマシになってきたんじゃないの? 少なくとも態度というか雰囲気は出てきたわよ? そう。雰囲気。内容はどうかしらないけど、アンタの表情見ればわかるわよ。アタシをなんだと思っているの。この道長いんだから、ツラを見れば大体のことはわかるってもんなのよ。
で、何を聞きたいのかしらね? やっぱり今回の全体的な話、ね。そうね。じゃあさっそく本題に入りましょうかね。
今回は、三つの事に驚いたわね。一つ目は昨年に比べて全体的に文章力がアップしたこと。これは本当に驚いたわ。この一年みんなの作品を通して観察させてもらったけど、みんな上手になったわねえ。びっくりしたわよアタシ。この一年でたくさん書いたり、公募等の賞に応募を続けた結果なのか成長してたわ。アタシも長いこと人の指導やアドバイスをしてきたけど、こんなにたくさんの人が去年より良くなっているを見たのは初めてよ。とても素晴らしいことだわね。
二つ目はテーマを自分なりに解釈して表現していたことね。アンタ、去年のことを覚えている? そう。アタシ、チャーハン(お題)を頼んだのにチャーハンが出てこないってキレてたわよね?笑 あのことがウソみたいに、みんな自分の春を表現できるようになっていたわよね。アタシこれもびっくりしちゃって。
アタシ自身はもはやプレーヤーであることを放棄しているので、筆力なんて現状維持どころか衰退しかしていないんだけど、みんなは数を書いてどんどんと力をつけていったわね。しっかりテーマをふまえて書けるだけの実力を手に入れたみたいで、うれしい限りね。
三つ目は参考作品のレベルにびっくりしたわ。実はアタシ、昨年の葉月賞作品のレベルを鑑みて、参考作品のレベルを変えることでもっと応募しやすい環境を作ろうと思ってたの。そうしたら二人ともすごいのを書いてくれて。
参考作品って、書いてほしいと頼んだわけでも推奨したり促したりしたわけでないのよ。だからアタシは自分しか書かないとすっかり思い込んでいたんだけど、そのあと二人が良いのを書いてくれて。「これはまた敷居が高くなってしまったかしら!?」と思ってしまったわ。結果的に参加者もレベルを高かったので安心したのだけど、正直、二人の参考作品にはビビッたわね笑。
ということで、本当によかった卯月賞だと思ったわ。なので、今回は最終選考対象はかなり厳しくなってしまったわよ。去年の基準で選んだら半数以上が合格になってしまったんだもの。だからもし選ばれなかったとしても、それは実力不足ではないから今回は落ち込む必要はぜんぜんないわよ。むしろ選べなくてアタシが申し訳なく思っているくらいだわよ。
どう、今回の感想は? アンタの予想通りだったかしらね。え? 文句言われないから不気味だって? いやねえ。本当に文句がないんだからいいじゃない。不満があるとすれば、みたいなものすらないんだから。アンタの作品もきっとこんな偏屈な賞レースでなければ、かなりイイ線いってるわよ。自信を持って書き続けなさいな。
え? なんだか気持ち悪い? 他に何かないかって? 本当に無いわよ。少しくらいアドバイス? うーんどうかしらねえ。アタシ、今回はマジで満足しているから、薀蓄たれたくないんだけどねぇ……。何よ、彼氏くんも含めてその目は! そんな目してねだられても何もないわよぉ。
仕方ないわねえ。このスナックさいかわに何を期待されているのか、さすがにわかってはいるから、あくまでも「次の段階」ということで、ひとつだけ話しておこうかしら。だけどこれは決して現状に対するダメ出しではないことは理解しておいてね。
まぁ、もし次の段階を目指すとしたら、構成力かしらね。特に四千字という短編では、何をどの程度書くのか、どういう構成バランスで書くのかを考えてから書くと、より良い作品になるのではないかしらね。頭から書いて四千字になりました、とか、超えちゃったとかいう「出来高」ではなく、きちんと全体構成をイメージしてから取り掛かるクセをつけると、全体としての完成度があがるわよ。
今回、全員といっていいくらいに文章力は向上したけれど、同時に文章力によるアドバンテージはなくなってしまったわけ。だから、構成力による完璧さという点によって優劣が決まったところがあったわね。
文章力について言及しておくと、ある程度上手になると作品全体の凹凸が平滑化されて、テーマがわかりにくくなるという副作用が出るの。だからそれに対して今度は、自分で凹凸をつけていかなければならないということも理解しておいてほしいかしら。今回受賞した作品は、そこまでできている作品に絞られてしまったわね。本当に採点基準が恐ろしくインフレしてしまって、アタシかなり困ってしまったわよ。
公募とかカクヨムの企画に応募することによって上手になっていっていることは大変喜ばしいことだけれど、今度は次のハードルを越えていかなければならいから、これからも頑張ってほしいと思うわ。アンタたちも少なくとも短編を書くときは、しっかりと頭を使って書くことを心がけてね。
あ、しゃべりながらアンパン食べててたら、オーナーと沙樹ちゃんの分まで食べちゃったわ……。まぁ、いいか。そこのカウンターの隅で寝ているうみべちゃんが全部食べたことにするから、アンタたちも口裏合わせなさいよね?
おしまい。
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