第30話 村デート
空き家は1人で住むのには贅沢な広さだった。前の住人は家族で住んでいたらしい、リュウがその家族の出て行った理由を聞くが、村長は難しい顔して話を逸らしたので、聞かれたくない事なのだろう。何はともあれ、大山リュウは大満足している。ここ10数年、雨風に晒されながら寝ていたドラゴンのリュウにとって、初めてのマイホームになるのだから。
「良い家ですね、気に入りました。」
「それは良かった。家具などは追って用意するので」
「本当ですか、なんか色々とありがとうございます」
「いいんだよ、これくらいさあゆっくりとくつろぎなさい」
リュウは床に大の字になって眠り始めた。
人間になっても、家を持つことになっても、この男は寝る事ばっかなのか
「おい、リュウ、起きろ」
「なんだよ、良いとこだったのに……」
「お前、せっかくマキの家の隣に住むことが出来たのに何もなしか!」
俺はガッカリした、せっかくあの村長が気を使って隣の家を紹介しただろうに、肝心のコイツがこの有様だ。さっきはマキの家に住めないと思ってガッカリしていたのに、今では自分の家が手に入ってそれで満足している。
「いいのよ、今は新しい生活になれよう、家具とか必要な物を揃えていかないと」
「まったく、お前って奴はマイペースだな」
「ごめんなさい、お邪魔します」
ダラダラしているリュウの家に誰かがやって来た。
男たちがタンスやら家具を持ってきてくれたのだ。その中にはマキの姿もあった。リュウは立ち上がって「どうぞどうぞ」と家に招き入れた。
机や棚、生活に必要な物を入れると先程までの広さが噓みたいに小さくなってしまった。それでも十分に広々としている。むしろこんなに広いと掃除が大変ではないだろうか?
男たちは仕事を終えると帰って行った。
ただマキだけは残ってくれて、「この村を案内してあげます」と言ってリュウの手を引っ張った。
「ここのお団子美味しいんですよ!」
「本当だ、美味しい、10年ぶりの団子……」
久しぶりに食べた団子に感動して涙を流すリュウ、マキはどうしたらいいのか分からず、あたふたしてしまう。
「村で採れた物は近くの他の村やちょっと遠い国へ持って行って、お金に変えたりしています。基本的に村の家同士で、物々交換をしたりしているんですよ!」
「なるほどね~、後聞きたいんだけどいいかな?」
「はい、なんでしょうか?!」
マキが何でもこいと構える
「おれこの世界の事詳しくはわかんないんだけど、王国の騎士団に守ってもらったりしないの? おれなんか雇うよりもいいんじゃないの?」
マキは首を横に振って否定した。
「そんなことありません、騎士団は自分の王国の守りで忙しいですし、助けてもらうとしても事件が起きた後、つまり事件後の調査と対処になるのです。勿論、抑止力にはなりますので無駄と言う事ではありません。ただ、村の皆は高い税を払ってまでする事ではないと言っているのです。なのでリュウさんみたいな強い人を用心棒として雇うか、村の腕に自信がある者がいないといけないのです。」
「なるほどね~、おれなんかでいいのか……」
「何を言っているのですか! リュウさんほどのお方いないですからね!」
「え、えへへ、そう?」
リュウは褒められたと思って、気持ち悪い笑みを返した。
「そりゃ、正体があのドラゴンさんなんですからね!」
マキは小悪魔みたいな顔でリュウの事を脅してくる。
「あ、マキ、その誰にも言ってないよね……」
「ふふふ、どうでしょう♡」
リュウとマキはその後も村デートを満喫した。
すっかり日が落ちて暗くなった。
リュウは今夜はマキの家で夕食を取ることになっている。
「ただいまー」
マキが元気よく家のドアを開けると、待ってましたと言わんばかりに紅林家がおもてなしを始める。俺は知っているこの家族がなぜここまでリュウをもてなすのか、それは村長に言われたからだ。リュウをこの村に留めるために
「初めまして、マキの父です。」
「あ、初めまして大山リュウです。」
まさか、こんな形で両親の御挨拶をすることとなるとは、リュウも思わなかっただろうよ、リュウは緊張しているようだった。
「この度はこの村を救って頂きありがとうございました。」
「いえいえ、人として当たり前のことをしたまでです。」
リュウは何とか自分を抑制して謙虚に振る舞っている。
「貴方のような強い方が守っていただけるなら心強いわ、あの山にいるドラゴンも倒せたり出来ないのかしら?」
マキの母親がリュウに聞いてきた。
そのドラゴンが目の前にいるとも知らずに
母親の失礼な態度にマキは怒る。
「お母さん、そんな事言わないで!」
親子喧嘩に巻き込まれてしまったリュウは蚊帳の外だ。
「ロード、おれ今日の主役だよな……」
「そうだ、人気者はつらいね~」
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